第3章 行政法 入門〜基本 頻出・比較が命

行政行為の効力と取消し

まちがった行政行為はどうなる? 無効・取消し・撤回の違い。

📖 このページでわかること

  1. 行政行為に間違い(瑕疵)があるとどうなるか
  2. 「無効」と「取消し」の違い(重大明白説とその例外)
  3. はじめの違法を直す「職権取消し」と後の事情でやめる「撤回」
  4. 授益的処分の取消し・撤回が制限されること
  5. 違法性の承継、瑕疵の治癒、違法行為の転換
前回、行政行為には「取り消されるまで有効」という公定力がありましたね。では、そもそも間違っていた決定はどうなるのでしょう。今回は「無効」「取消し」「撤回」という、よく似ていて混同しやすい3つを、きちんと区別していきましょう。ここは比較がすべてです。表を頭に焼きつければ、得点源になりますよ。

1. 行政行為の「瑕疵(かし)」とは

瑕疵とは、むずかしい言葉ですが、要するに「キズ・間違い」のことです。行政行為に法律違反などのキズがある状態を「瑕疵がある」といいます。キズには、内容が法律に反する違法と、違法とまではいえないが妥当でない不当とがあります。

では、キズのある行政行為はどう扱われるのでしょうか。実はキズの程度によって、扱いが2つに分かれます。それが「取消し(取消しうべき行政行為)」「無効」です。

2. 「取消し」と「無効」の分かれ目

前回学んだ公定力を思い出してください。行政行為は、間違っていても原則として「取り消されるまでは有効」でした。これが基本です。

原則は「取消し」、例外で「無効」

原則=取消しうべき行為:キズがあっても、正式に取り消されるまでは有効(公定力が働く)。
例外=無効:キズがあまりにひどい場合は、はじめから当然に効力なし。取消しの手続きを待つ必要もない。

無効になるのは「重大かつ明白」なとき(重大明白説)

どんなときに「無効」という重い扱いになるのか。判例の基本的な立場は重大明白説です。

重大明白説

キズが① 重大(内容が重い間違い)で、かつ② 明白(誰が見ても一見してわかる)——この両方がそろったときだけ、行政行為は無効になります。どちらか一方だけでは足りません。

もっとも、「明白」をいつも厳格に求めると、国民の救済が狭くなりすぎることがあります。そこで、例外的に「明白」を要せず、重大な瑕疵だけで無効を認める余地があると考えられる場面もあります(とくに第三者の信頼を害さないようなケース)。試験では、まず原則は重大明白説であることを軸に押さえ、「明白性が常に絶対の要件とは限らない」という含みも知っておくと安心です。

たとえ話:明らかにおかしい請求書

役所から「あなたに100万円の支払いを命じます」という通知が来たとします。ちょっと計算が違う程度のキズなら、正式に「取り消して」と申し立てるまでは有効(=取消しの対象)。でも、まったく別人あての通知が、誰が見ても明らかに間違って届いたような場合は、重大かつ明白なキズなので、最初から効力なし(=無効)。「キズの深さと、見ればわかる明らかさ」で扱いが変わるのです。

取消しうべき行為無効
キズの程度軽い〜ふつう重大かつ明白(原則)
取り消されるまでは有効(公定力あり)はじめから効力なし
公定力・不可争力働く働かない
争う方法取消訴訟・審査請求無効等確認訴訟など(取消訴訟も可)
期間制限あり(過ぎると争えない)なし(いつでも主張できる)
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3. 「職権取消し」と「撤回」——やり直しの2つの方法

すでに出してしまった行政行為を、役所が自分から効力を失わせる方法が2つあります。それが職権取消し撤回です。名前は似ていますが、理由も効果も違います。ここが今回いちばんの試験ポイントです。

① 職権取消し——“はじめから”間違っていた場合(原始的瑕疵)

職権取消しは、行政行為にもともと(行為のとき)違法・不当があったこと、つまり原始的瑕疵を理由に、役所が自分の判断(職権)でその効力を失わせることです。最初から間違っていたので、効果は原則として過去にさかのぼって(遡及して)消えます。「なかったこと」にするイメージです。なお職権取消しは、処分庁だけでなく、その上級行政庁もできると考えられています。

② 撤回——“後から”事情が変わった場合(後発的事情)

撤回は、行政行為そのものはもともと適法だったけれど、後から新しい事情が生じたために、これ以上効力を続けるのは適当でない、として効力を失わせることです。最初は正しかったので、効果は将来に向かってのみ消えます。過去にはさかのぼりません。撤回ができるのは、原則としてその処分をした行政庁(処分庁)だけです(後の事情を判断できるのは処分庁だから)。

たとえ話:営業許可をやめさせる2つの理由

あるお店に営業許可が出ています。
そもそも許可してはいけない店だった(最初から間違い=原始的瑕疵)→職権取消し。最初から許可がなかったことになる。
許可は正しかったが、後で重大な法律違反を繰り返した(後からの事情)→撤回。これからは営業できないが、過去の営業まで違法にはならない。
「最初から間違い」か「後から事情が変わった」かが、見分けのカギです。

職権取消し撤回
理由原始的な違法・不当後発的な新しい事情
もとの行為は最初から問題あり最初は適法だった
効力が消える向き過去にさかのぼる(遡及)将来に向かってのみ
できる主体処分庁+上級行政庁処分庁のみ(原則)
イメージ「なかったこと」にする「ここでおしまい」にする
注意:言葉づかいに引っかからないで

日常語では「取消し」も「撤回」も同じように使いますが、行政法でははっきり別物です。取消し=はじめからの違法/撤回=後からの事情。さらに、取消しは遡及する(過去に戻る)のに対し、撤回は将来に向かうだけ。この対比を逆に覚えると失点します。

授益的処分の取消し・撤回には“ブレーキ”がかかる

許可や年金の支給決定のように、国民に利益を与える処分(授益的処分)を、後から取り消したり撤回したりすると、それを信頼して生活していた国民が大きな不利益を受けます。そこで、こうした処分の取消し・撤回には制限がかかります。

授益的処分の取消し・撤回の制限

国民に利益を与える処分を取り消す・撤回すると、相手の信頼や生活が害されます。そこで、取消し・撤回によって達成される公益と、相手が受ける不利益(信頼保護)とを比べ合わせて(比較衡量して)、なお取消し・撤回すべき必要があるときに限って認められる、と考えられています。「相手に落ち度がない授益的処分は、簡単には取り消せない」とイメージしましょう。
逆に、国民に義務を課すような侵害的処分を取り消す・撤回する場合は、相手にとって有利になるので、こうした制限は基本的に問題になりません。

具体例:いったん出た年金の支給決定

役所のミスで本来より多く年金を支給する決定が出ていたとします。これを後から取り消すと、それを当てにして暮らしていた人は困ります。だから、役所の都合だけで自由に取り消せるわけではなく、取り消す公益上の必要と、相手の信頼・不利益を比べ合わせて判断することになります。

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4. 違法性の承継——前のキズが後ろに“伝染”する?

行政の処理が複数の行為の積み重ねで進むことがあります。たとえば、先行する行為Aを土台にして、後続の行為Bが行われる、というように。このとき、Aの違法を、後続のBを争うなかで主張できるかが「違法性の承継」の問題です。

原則は「承継されない」です。それぞれの行為は別個の行為であり、Aに不可争力が生じていれば、Bの段階でAの違法を蒸し返すのは難しいからです。しかし、AとBが同じ目的に向けて結びつき、一連の手続として一体とみられるような場合には、例外的に違法性の承継が認められ、Bを争うなかでAの違法を主張できるとされることがあります。

たとえ話:リレーのバトンとキズ

AさんからBさんへバトンを渡すリレーを思い浮かべてください。普通は、Aさんの走りのミスを、Bさんの区間でいまさら問題にはできません(=承継されない)。でも、AとBがひとつのゴールに向けた一体のチームとみなせるような場合には、Aの段階のミスを、Bの段階でまとめて問えることがある——これが違法性の承継のイメージです。

5. 瑕疵の治癒と、違法行為の転換

キズのある行政行為を、わざわざ取り消してやり直すのは大変です。そこで、一定の場合にはキズがあっても有効なものとして扱おうとする考え方があります。それが「瑕疵の治癒」と「違法行為の転換」です。

瑕疵の治癒——後からキズがふさがる

瑕疵の治癒とは、行為のときには手続などにキズがあったが、その後の事情によってキズが補われ、もはや取り消すまでもないとして、その行為を有効と扱うことです。「あとからキズがふさがって、傷あとが消えた」イメージです。たとえば、必要な手続が後から実質的に満たされたような場合に問題になります。

違法行為の転換——別の行為として生かす

違法行為の転換とは、ある行為としては違法だが、別の行為としてみれば適法な場合に、その別の行為として有効に扱うことです。「Aとしてはダメだが、Bとしてなら成り立つから、Bとして生かそう」というイメージです。

区別のしかた

瑕疵の治癒=もとの行為は同じまま、後の事情でキズが補われて有効になる。
違法行為の転換=もとの行為を別の行為に読み替えて有効にする。
どちらも「取り消してやり直す手間を省き、行為を生かす」点では共通しますが、同じ行為のまま治すか/別の行為に読み替えるかが違います。

演習過去問チャレンジ(○×)

Q1.行政行為に違法な点があれば、その程度を問わず、つねに当然に無効となる。

正解は ×。違法でも原則は「取り消されるまで有効」(公定力)。当然に無効となるのは、キズが重大かつ明白なとき(重大明白説)が原則です。

Q2.撤回は、もともと適法であった行政行為について、後から生じた事情を理由に、将来に向かってその効力を失わせるものである。

正解は 撤回の正しい説明です。もとは適法、理由は後発の事情、効果は将来に向かってのみ(遡及しない)です。

Q3.職権取消しは、後から生じた事情を理由とし、その効力は将来に向かってのみ生じる。

正解は ×。これは撤回の説明です。職権取消しは原始的な違法を理由とし、効力は原則として過去にさかのぼって消えます。

Q4.無効な行政行為については、出訴期間内でなければその無効を主張することができない。

正解は ×。無効な行政行為には不可争力が働かず、期間制限はありません。いつでも無効を主張できます。

Q5.国民に利益を与える授益的処分の取消しや撤回は、取消し・撤回によって得られる公益と相手方の不利益とを比較衡量して、なお必要があるときに限って認められうる。

正解は 。授益的処分の取消し・撤回には信頼保護の観点から制限がかかり、公益と相手の不利益を比較衡量して判断されます。

Q6.先行行為と後続行為が一連の手続として一体とみられる場合であっても、先行行為の違法を後続行為の取消訴訟で主張することは一切できない。

正解は ×。原則は承継されませんが、両行為が一体とみられるような場合には、例外的に違法性の承継が認められることがあります。

Q7.違法行為の転換とは、ある行為としては違法であっても、別の行為としてみれば適法な要件を満たす場合に、その別の行為として有効に扱うことをいう。

正解は 違法行為の転換の説明として正しい記述です。もとの行為を別の行為に読み替えて有効にします。

暗記一問一答
瑕疵のある行政行為は原則どう扱われる?
A. 原則取り消されるまで有効(公定力)。無効は例外。
無効になるのはどんなとき?
A. 原則、キズが重大かつ明白なとき(重大明白説)。両方そろう必要がある。
無効の主張に期間制限はある?
A. ない。無効はいつでも主張できる(取消しは期間制限あり)。
職権取消しの理由と効果は?
A. 原始的な違法・不当が理由。効果は過去にさかのぼる(遡及)
撤回の理由と効果は?
A. 後発の新しい事情が理由。効果は将来に向かってのみ(遡及しない)。
撤回ができる主体は?
A. 原則処分庁のみ(後の事情を判断できるのは処分庁だから)。
授益的処分の取消し・撤回が制限される理由は?
A. 相手の信頼保護。公益と相手の不利益を比較衡量して判断する。
違法性の承継の原則と例外は?
A. 原則承継されない。一連の手続として一体とみられる場合は例外的に承継される。
瑕疵の治癒とは?
A. 後の事情でキズが補われ、同じ行為のまま有効と扱うこと。
違法行為の転換とは?
A. もとの行為を別の行為に読み替えて有効に扱うこと。

📌 このページのまとめ

  • 瑕疵があっても原則は取消しの対象(取り消されるまで有効)、無効は例外
  • 無効になるのは原則重大かつ明白なとき(重大明白説)。明白性は常に絶対の要件とは限らない
  • 無効は期間制限なしでいつでも主張できる
  • 職権取消し=原始的瑕疵が理由、効果は遡及、処分庁+上級庁ができる
  • 撤回=後発の事情が理由、効果は将来のみ、原則処分庁のみ
  • 授益的処分の取消し・撤回は信頼保護から制限(公益と不利益の比較衡量)
  • 違法性の承継は原則なし、一体とみられる場合は例外あり。瑕疵の治癒と違法行為の転換も区別