📖 このページでわかること
- 「債務不履行」とは何か、その3つの型
- 損害賠償(415条)と、賠償できる範囲(416条 通常・特別損害)
- 金銭債務の特則(419条)と過失相殺(418条)
- 契約をやめる「解除」(催告解除541条・無催告解除542条)
- 解除の効果と第三者保護・登記(545条)
- 危険負担(536条)と受領遅滞
1. 債務不履行の3類型
債務不履行とは、債務者が約束(債務)どおりに実行しないことです。やり方によって3つの型に分かれます。
① 履行遅滞——約束に遅れる
実行はできるのに、期限を過ぎても実行しないこと。いちばんよくある型です。いつから遅滞になるか(遅滞の起算点)は、期限の種類で変わります。
| 期限の種類 | いつから履行遅滞になる? |
|---|---|
| 確定期限 (〇月〇日に支払う) | その期限の到来時から |
| 不確定期限 (〇さんが亡くなったら) | 期限到来を知った時、または履行の請求を受けた時のいずれか早い時から |
| 期限の定めなし | 債権者から履行の請求を受けた時から |
② 履行不能——もう実行できない
引き渡すはずだった物が壊れた・なくなったなどで、実行が不可能になった状態です。契約の時点ですでに不能だった場合(原始的不能)でも、契約は当然には無効にならず、債務不履行として損害賠償の問題になりうると整理されています。
③ 不完全履行——一応やったが不十分
実行はしたものの、内容が約束どおりでない(数が足りない・品質が悪いなど)こと。
誕生日に間に合うようケーキを注文したとします。
・当日になっても届かない=履行遅滞
・お店が火事になり、もう作れない=履行不能
・届いたけれど一部がつぶれていた=不完全履行
どの形で約束が破られたかによって、こちらの取れる手段(追完・賠償・解除)が変わってきます。
2. 損害賠償を請求する(415条)
債務不履行で損害を受けたら、債権者は損害賠償(お金での埋め合わせ)を請求できます。
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき、または履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求できる。ただし、その不履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
賠償を求めるには、原則として不履行が債務者の責め(帰責事由)によることが必要です。地震など、債務者に責任のない事情で実行できなかった場合は、賠償責任を負いません。後で出てくる「解除には帰責事由が不要」との違いが最重要ポイントです。
3. 賠償できる範囲(416条 通常損害・特別損害)
では、いくらまで賠償させられるのでしょうか。賠償の範囲は416条が定めています。
1項 損害賠償は、債務の不履行によって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2項 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者はその賠償を請求することができる。
| 通常損害 | 特別損害 | |
|---|---|---|
| 中身 | その不履行からふつう生じる損害 | 特別の事情から生じた損害 |
| 賠償の要件 | 当然に賠償の対象 | その事情を予見すべきだったときに対象 |
| 予見の基準時 | — | 不履行の時(履行期)を基準に判断するのが判例 |
建物の引渡しが遅れた場合、その間に住めず仮住まいの家賃がかかった——これは通常生じる損害(通常損害)として賠償の対象になりやすいです。一方、「その建物を高値で転売する話がまとまっていたのに、遅延で破談になった」という転売利益の喪失は特別の事情によるもので、相手がその事情を予見すべきだった場合に限り賠償の対象になります。
4. 金銭債務の特則(419条)
賠償の対象が「お金を払う債務(金銭債務)」の場合には、特別ルールがあります。お金は「調達できない」ということが原則ないため、債務者を強く扱います。
| 金銭債務の特則(419条) | 中身 |
|---|---|
| 損害額 | 原則として法定利率による遅延損害金(約定利率が高ければそれによる)。実損の立証は不要 |
| 損害の証明 | 債権者は損害の証明をしなくてよい(損害があったことを示さなくても遅延損害金を請求できる) |
| 不可抗力の抗弁 | 債務者は不可抗力をもって抗弁できない(「お金がなかった」は言い訳にならない) |
ふつうの債務不履行は「帰責事由がなければ賠償責任なし」でしたが、金銭債務の支払遅延では債務者は不可抗力を理由に責任を免れることができません。お金は世の中にあるはずで「払えない」は通らない、という発想です。
5. 過失相殺(418条)
債務不履行や損害の発生・拡大について債権者の側にも落ち度(過失)があったときは、裁判所はそれを考慮して賠償額を減らしたり、責任そのものを判断したりします。これを過失相殺といいます。
418条の過失相殺は、債権者に過失があれば裁判所が必ずこれを考慮して賠償の責任・額を定めるとされています。不法行為の過失相殺(722条2項)が「考慮できる(任意的)」とされるのとの違いが問われることがあります。
工事の遅れで損害が出たが、その一因として注文者(債権者)の指示ミスもあった——という場合、注文者の過失分だけ賠償額が減額されることがあります。「相手が全部悪い」とは限らない、というイメージです。
6. 契約を「解除」してやめる
賠償だけでなく、契約そのものをやめたいこともあります。それが解除です。解除すると契約は最初からなかったことになり、すでに渡した物やお金はお互い返し合う(原状回復)ことになります。解除には2つのやり方があります。
① 催告解除——まず「やってください」と促す(541条)
相手が実行しないとき、相当の期間を定めて催告(「○日以内にやってください」と促す)し、それでも実行されなければ解除できます。
② 無催告解除——促すまでもないとき(542条)
催告しても意味がない一定の場合は、いきなり解除できます。たとえば履行が全部不能になったときや、債務者がはっきり「やらない」と拒んだときなどです。
| 催告解除(541条) | 無催告解除(542条) | |
|---|---|---|
| 催告 | 必要 相当の期間を定めて | 不要 |
| どんな場面 | 履行遅滞など 促せば実行の余地あり | 履行全部不能・明確な履行拒絶など 促しても無意味 |
| 帰責事由 | どちらも債務者の帰責事由は不要 | |
| 共通点 | 解除すると契約は最初から消え、原状回復義務が生じる | |
催告しても、その不履行が軽微なときは解除はできません(541条ただし書)。契約をまるごと白紙に戻すほどの理由はない、と考えるためです。「催告したから必ず解除できる」わけではない点に注意します。
7. 【改正点】解除に「相手の落ち度」は不要
ここが試験で狙われる改正ポイントです。解除には、債務者の帰責事由(落ち度)は必要ありません。
解除の目的は「相手を責める」ことではなく、約束が果たされない契約から自分を解放することです。だから相手に落ち度がなくても解除できます。一方、損害賠償は相手の落ち度(帰責事由)が必要——ここをセットで覚えましょう。
| 債務者の帰責事由 | 債権者側の帰責事由があるとき | |
|---|---|---|
| 損害賠償の請求 | 必要 | — |
| 契約の解除 | 不要 | 債権者に帰責事由がある不履行では解除できない(543条) |
帰責事由は不要ですが、その不履行が債権者(解除しようとする側)の責めに帰すべき事由によるときは、解除できません(543条)。「自分のせいで履行されなかったのに解除する」のは許されない、ということです。
8. 解除の効果と第三者保護(545条)
解除すると、当事者はお互いを契約前の状態に戻す(原状回復)義務を負います。受け取っていたお金を返すときは、受領の時からの利息を付けて返すのが原則です。ここで問題になるのが、解除前に登場していた第三者の保護です。
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
545条1項ただし書により、解除前にその目的物について権利を得ていた第三者は保護され、解除によって権利を奪われません。判例は、この第三者が保護されるには権利保護要件としての登記を備えていることが必要だとしています。
| 第三者が現れた時期 | 処理 |
|---|---|
| 解除前の第三者 | 545条1項ただし書で保護(判例は登記を要求) |
| 解除後の第三者 | 解除した者と第三者は対抗関係(登記の早い者勝ち・177条)で処理 |
AがBに土地を売り、BがそれをCに転売した後で、AがBの代金不払いを理由に売買を解除した。
→ Cは解除前の第三者。Cが登記を備えていれば、Aは解除をCに対抗できず、Cは土地を保持できます。
9. 危険負担——どちらが損をかぶる?(536条)
たとえば建物の売買で、引渡し前にどちらの責任でもなく(落雷など)建物が壊れてしまったとします。買主は代金を払わなければならないのでしょうか。これが危険負担の問題です。
| 滅失の原因 | 買主は代金を払う? |
|---|---|
| 双方に帰責事由なし (落雷など) | 買主は代金支払いを拒める(536条1項)。解除も可能 |
| 債権者(買主)の帰責事由による滅失 | 買主は代金支払いを拒めない(536条2項) |
引渡し前に、当事者どちらのせいでもなく目的物が滅失した場合、買主は代金の支払いを拒むことができます。「受け取れない物の代金は払わなくてよい」という考え方です。なお、買主はこの契約を解除してすっきり清算することもできます(解除に帰責事由は不要でしたね)。逆に、買主自身の不注意で物を壊した場合は、代金を払わなければなりません。
10. 受領遅滞——債権者が受け取らないとき
債務者がきちんと履行しようとしているのに、債権者が受け取りを拒んだり受け取れなかったりすることがあります。これを受領遅滞といいます(413条)。受け取らない債権者にも一定の不利益が生じます。
| 受領遅滞の効果 | 中身 |
|---|---|
| 注意義務の軽減 | 債務者の保存義務が、自己の財産と同一の注意で足りる程度に軽くなる |
| 増加費用の負担 | 受領遅滞によって増えた保管費用などは債権者の負担になる |
| 危険の移転 | 受領遅滞中に双方無責で履行不能になったときは、債権者の帰責事由によるものとみなされ、代金支払いを拒めない |
宅配便を「今日は受け取れない、明日また来て」と何度も断られると、配達する側は余計な手間や保管の負担を負います。受領遅滞は、こうした受け取らない側に生じた不利益は、その人に負担してもらうという発想の制度です。
Q1.債務不履行を理由に契約を解除するには、その不履行が債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)によるものであることが必要である。
正解は ×。改正後、解除に債務者の帰責事由は不要です。落ち度を問うのは損害賠償のほうです。両者の違いが頻出。
Q2.履行が不能となった場合や、債務者が履行を明確に拒絶した場合には、催告をすることなく契約を解除できる。
正解は 〇。履行不能や明確な履行拒絶などでは、催告しても意味がないため無催告解除(542条)が認められます。
Q3.債務不履行による損害賠償は、不履行が地震など債務者の責めに帰することができない事由によるものであっても、当然に請求できる。
正解は ×。損害賠償は債務者の帰責事由が必要で、責めに帰せない事由による不履行では賠償責任を負いません(415条ただし書)。
Q4.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者はその賠償を請求できる。
正解は 〇。416条2項のとおりです。通常損害は当然に、特別損害は予見すべきだったときに賠償の対象になります。
Q5.金銭債務の不履行による損害賠償を請求するには、債権者は実際に損害が生じたことを証明しなければならない。
正解は ×。金銭債務の特則(419条)により、債権者は損害の証明を要しません。また債務者は不可抗力を抗弁にできません。
Q6.催告解除では、債務の不履行がごくわずかな軽微なものであっても、催告さえすれば常に契約を解除できる。
正解は ×。不履行が軽微なときは、催告しても解除できません(541条ただし書)。
Q7.契約解除前に目的物について権利を取得し登記を備えた第三者は、解除によってその権利を害されない。
正解は 〇。545条1項ただし書で解除前の第三者は保護され、判例は保護に登記を要求します。
Q8.当事者双方の責めに帰することができない事由により目的物が引渡し前に滅失したときは、買主は代金の支払いを拒むことができる。
正解は 〇。危険負担(536条1項)により、双方無責の滅失では買主は代金支払いを拒める。さらに解除も可能です。
債務不履行の3類型は?
期限の定めのない債務はいつ履行遅滞になる?
損害賠償の請求に必要なものは?
賠償範囲(416条)の通常損害・特別損害は?
金銭債務の特則(419条)は?
債務不履行の過失相殺(418条)の特徴は?
催告解除と無催告解除の違いは?
解除に債務者の帰責事由は必要?
解除前の第三者は保護される?
危険負担(536条)の原則は?
📌 このページのまとめ
- 債務不履行の型は履行遅滞・履行不能・不完全履行の3つ。遅滞の起算点は期限の種類で変わる
- 損害賠償(415条)は債務者の帰責事由が必要。範囲は通常損害+予見すべきだった特別損害(416条)
- 金銭債務は特則(419条)で損害証明不要・不可抗力で抗弁できない。過失相殺(418条)は必ず考慮
- 解除は催告解除(541条)/無催告解除(542条)。効果は原状回復。軽微な不履行では解除できない
- 改正で解除に債務者の帰責事由は不要に(賠償との違いが頻出)。ただし債権者の帰責事由による不履行では解除不可(543条)
- 解除前の第三者は登記を備えれば保護(545条)。危険負担(536条)は双方無責なら買主は代金を拒める。受領遅滞では危険が債権者へ移る