第1章 民法 入門〜基本 頻出・要件が大切

不法行為

他人に損害を与えたら賠償。要件と特殊な不法行為を押さえます。

📖 このページでわかること

  1. 一般不法行為(709条)の4つの要件と、その中身
  2. 未成年者などの「責任能力」(誰が賠償するのか)
  3. 人を雇う側が負う「使用者責任」、監督義務者の責任
  4. 建物や塀などが原因の「工作物責任」、共同不法行為
  5. 過失相殺・損益相殺、損害賠償の範囲と慰謝料、消滅時効
これまでは「契約」、つまり約束をした人どうしの話でした。今回は約束をしていない相手に損害を与えてしまった場合の責任、不法行為です。交通事故を思い浮かべると、ぐっと身近になりますよ。要件をていねいに分解していきましょう。

1. 一般不法行為(709条)——4つの要件

他人の権利や利益を侵害して損害を与えた人は、その損害を賠償する責任を負います。これが一般不法行為です。

民法709条(要旨)
故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

賠償責任が生じるには、次の4つの要件がそろう必要があります。

たとえ話:交通事故で考える

わき見運転(過失)で歩行者にぶつかり(権利侵害)、ケガをさせて治療費がかかった(損害)。そのケガは事故が原因だ(因果関係)——この4つがそろえば、運転者は治療費などを賠償する責任を負います。4要件は、この事故の場面で覚えると忘れません。

各要件を少しくわしく

試験では要件の中身まで問われます。それぞれを押さえましょう。

立証するのは原則「被害者」側

一般不法行為では、加害者の故意・過失などの要件は、原則として請求する被害者側が証明しなければなりません(契約違反の責任とは立証の仕組みが違います)。この後に出てくる特殊な不法行為では、この負担が被害者側に有利に修正されています(証明責任が相手に転換されるなど)。

2. 責任能力——誰が賠償するのか

不法行為で賠償責任を負うには、自分の行為の善悪を判断できる責任能力が必要です。これを欠く人は、自ら賠償責任を負いません。

条文内容
712条未成年者で、自分の行為の責任を弁識する能力(責任能力)がないときは、賠償責任を負わない
※年齢で一律ではなく、おおむね11〜12歳前後が目安とされる
713条精神上の障害などで責任を弁識する能力を欠く状態の間に他人に損害を与えても、原則として賠償責任を負わない
※故意・過失でその状態を招いたときは免れない

3. 監督義務者の責任(714条)

責任能力のない人(小さな子どもなど)が他人に損害を与えた場合、その本人は責任を負いません。そこで、その人を監督すべき立場の人(親など=監督義務者)が、代わって賠償責任を負います。

監督義務者は「免責の余地」がある

監督義務者は、監督義務を怠らなかったこと、または義務を怠らなくても損害が生じたであろうことを証明すれば、責任を免れることができます。証明責任が監督義務者側に転換されている(中間責任)点がポイントです。実際には免責が認められるのは容易ではありません。

4. 使用者責任(715条)——雇い主の責任

従業員(被用者)が仕事の中で他人に損害を与えたとき、その雇い主(使用者)も賠償責任を負います。利益を上げる立場の人は、その活動で生じた損害も引き受けるべき、という考え方(報償責任)です。

具体例

運送会社の配達員が、配達中の運転ミスで通行人にケガをさせた。
→ 配達員本人だけでなく、運送会社(使用者)も賠償責任を負います。被害者は、資力のある会社に請求できるので守られやすくなります。

使用者責任の3つのポイント

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5. 工作物責任(717条)——建物・塀などの責任

建物・塀・看板などの工作物に欠陥(設置・保存の瑕疵)があり、それで他人に損害が生じたとき、責任を負うのは誰か。717条は占有者→所有者の二段構えになっています。

責任を負う人責任の性質免責できる?
① まず占有者
その物を使っている人
過失責任
(中間責任)
必要な注意をしていれば免責される
② 次に所有者
占有者が免責された場合
無過失責任注意していても免責されない

★まず占有者が責任を問われ、占有者が「損害防止に必要な注意をしていた」と証明できれば、最後は所有者が責任を負います。所有者は逃げられない(無過失責任)点が最重要ポイントです。

具体例

老朽化した塀が倒れて通行人がケガをした。まず塀を使っていた占有者(例えば借家人)が責任を問われますが、占有者が必要な注意をしていたと示せれば、最終的に所有者が責任を負います。所有者は「注意していた」と言っても免れられません。

注意:原因を作った人へ求償できる

占有者・所有者が被害者に賠償した場合、損害の原因について他に責任のある者(瑕疵を作った工事業者など)がいれば、その者に求償できます。最終的な負担を、本当に悪い人に回せるしくみです。

6. 共同不法行為(719条)

複数の人が共同で他人に損害を与えたときは、その全員が連帯して賠償責任を負います。被害者は、加害者の誰に対しても損害の全額を請求でき、しっかり救済されます。

「誰がやったか分からない」ときも連帯責任

共同行為のうち、どの人の行為が損害を生じさせたか分からないときも、全員が連帯して責任を負います。被害者が「あなたのせいだ」と特定できなくても、救済が受けられるようになっています。賠償した加害者は、内部の負担割合に応じて他の加害者に求償できます。

7. 過失相殺——被害者にも落ち度があったら

損害の発生について被害者側にも落ち度(過失)があったときは、裁判所はそれを考慮して賠償額を減らすことができます。これを過失相殺といいます。

たとえ話:信号無視の歩行者

車のわき見運転で歩行者がはねられたが、歩行者も赤信号を渡っていた——。このとき、加害者だけに全責任を負わせるのは公平ではありません。被害者の落ち度の分だけ賠償額を調整するのが過失相殺です。

注意:不法行為の過失相殺は「できる」(任意的)

不法行為の過失相殺は、裁判所が損害賠償の額を定めるにあたって考慮できるもので、賠償額を減らすかどうかは裁判所の裁量に委ねられます。これに対して、債務不履行の過失相殺は、過失を必ず考慮しなければならない(責任や金額に必ず反映する)点で違いがあります。混同しやすいので注意しましょう。

8. 損益相殺と損害賠償の範囲

損益相殺とは、不法行為によって被害者が利益も得たときに、その利益分を賠償額から差し引くことです。「損害から得た利益を引いて、本当の損だけを賠償する」という公平の調整です。

賠償の範囲は、原則としてその不法行為と相当因果関係のある損害に限られます。範囲には次のようなものが含まれます。

慰謝料は近親者にも認められることがある

生命を侵害された被害者本人の慰謝料請求権は、相続人に承継されます。さらに、被害者の父母・配偶者・子などの近親者は、自身の精神的苦痛について固有の慰謝料を請求できます(711条)。「亡くなった本人の分」と「遺族自身の分」は別、と整理しましょう。

9. 不法行為の消滅時効(724条)

不法行為による損害賠償請求権は、次のいずれかで時効消滅します。

民法724条(要旨)
不法行為による損害賠償請求権は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年のいずれかが経過したときは、時効によって消滅する。
起算点期間
損害および加害者を知った時から3年
人の生命・身体の侵害は5年
不法行為のから20年

★「知った時から3年」と「行為の時から20年」がセット。人の生命・身体を害した場合は、被害者保護のため3年→5年に延びます(724条の2)。

演習過去問チャレンジ(○×)

Q1.一般の不法行為に基づく損害賠償を請求するには、加害者の故意または過失、権利侵害、損害の発生、行為と損害との因果関係が必要である。

正解は 。709条の一般不法行為は故意・過失/権利侵害/損害/因果関係の4要件が必要です。基本の確認問題です。

Q2.土地の工作物の設置または保存に瑕疵があって損害が生じた場合、所有者は、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたことを証明すれば、賠償責任を免れる。

正解は ×。免責が認められるのは占有者です。所有者の責任は無過失責任で、注意していたことを証明しても免れられません。

Q3.被害者にも損害の発生について過失があった場合、裁判所は、これを考慮して損害賠償の額を定めることができる。

正解は 。これが過失相殺です。被害者側の落ち度を考慮して賠償額を調整し、公平を図ります(不法行為では考慮するかどうかは裁判所の裁量)。

Q4.責任能力のない未成年者が他人に損害を与えた場合、その未成年者本人が損害賠償責任を負う。

正解は ×責任能力のない未成年者は賠償責任を負いません(712条)。この場合、原則として監督義務者(親など)が責任を負います(714条)。

Q5.使用者が被害者に損害を賠償した場合、使用者は、不法行為をした被用者に対して求償することができる。

正解は 。使用者は被用者に求償できます。ただし判例は、損害の公平な分担の見地から、求償の範囲が信義則上相当な範囲に制限されるとしています。

Q6.共同不法行為者は、被害者に対して各自が連帯して損害の全額について賠償責任を負う。

正解は 。共同不法行為(719条)では、加害者全員が連帯して全額の責任を負い、被害者は誰にでも全額を請求できます。被害者保護のしくみです。

Q7.不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から10年で時効消滅する。

正解は ×。「知った時から」は3年(生命・身体の侵害は5年)です。10年ではありません。もう一つの基準が「行為の時から20年」です。

Q8.生命を侵害された被害者の父母・配偶者・子は、自己の精神的損害について固有の慰謝料を請求することができる。

正解は 。711条により、近親者は自分自身の苦痛について固有の慰謝料を請求できます。被害者本人の慰謝料とは別枠です。

暗記一問一答
一般不法行為(709条)の4要件は?
A.故意または過失 ②権利・利益の侵害 ③損害の発生 ④因果関係
故意・過失の立証責任は誰に?
A. 一般不法行為では原則被害者側。特殊な不法行為では相手側に転換されることが多い。
責任能力のない人が損害を与えたら誰が賠償する?
A. 本人は責任を負わず(712・713条)、原則として監督義務者が責任を負う(714条)。
使用者責任とは?
A. 従業員が仕事の中で与えた損害について、使用者(雇い主)も賠償責任を負う(715条)。被用者に求償可(範囲は制限あり)。
工作物責任で占有者と所有者の違いは?
A. 占有者は過失責任(免責あり)、占有者が免責されると所有者が無過失責任(免責なし)(717条)。
共同不法行為の効果は?
A. 加害者全員が連帯して全額の責任。被害者は誰にでも全額請求できる(719条)。
過失相殺とは?
A. 被害者側にも過失があるとき、裁判所が考慮して賠償額を減らせること(不法行為では裁量)。
損益相殺とは?
A. 被害者が不法行為で利益も得たとき、その分を賠償額から差し引くこと。
近親者の固有の慰謝料は?
A. 生命侵害のとき、父母・配偶者・子は固有の慰謝料を請求できる(711条)。
不法行為の消滅時効は?
A. 損害と加害者を知った時から3年(生命・身体は5年)、行為の時から20年(724条)。

📌 このページのまとめ

  • 一般不法行為(709条)は故意・過失/権利侵害/損害/因果関係の4要件。立証は原則被害者側
  • 責任能力のない人は責任を負わず、原則監督義務者が責任を負う(712〜714条)
  • 使用者責任(715条)=従業員が仕事中に与えた損害は雇い主も賠償。被用者に求償可(範囲制限あり)
  • 工作物責任(717条)=占有者は過失責任、所有者は無過失責任
  • 共同不法行為(719条)は全員が連帯責任、被害者に過失があれば過失相殺(不法行為は裁量)
  • 賠償の範囲は相当因果関係のある損害。近親者にも固有の慰謝料(711条)
  • 消滅時効は知った時から3年(生命・身体は5年)/行為の時から20年(724条)