📖 このページでわかること
- 「行政法」という名前の法律は存在しないということ
- 行政法を3つに分ける地図(行政作用法・行政救済法・行政組織法)
- 行政の活動を縛る大原則「法律による行政の原理」の3つの中身
- 公法と私法の関係(公法私法二元論の今)
- 「行政主体」と「行政機関」、6種類の行政機関の役割
- 権限の「代理・委任・専決」の違い
1. 「行政法」という法律は、実はない
民法には『民法』、憲法には『日本国憲法』という1冊の条文集があります。ところが、本屋さんで「行政法」という名前の六法を探しても見つかりません。なぜでしょう。
それは、「行政法」が1つの法律の名前ではなく、たくさんの法律をまとめて呼ぶ“総称”だからです。国や役所の活動に関係する法律——行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法……これらをひっくるめて「行政法」と呼んでいるのです。
では、これらの法律に共通している考え方は何でしょう。それは「行政(役所)の活動を、どうルールで縛り、国民をどう守るか」という一点です。バラバラの法律に見えても、根っこにある問題意識は同じ。だからこそ「行政法」という1つのまとまりとして学べるのです。
大きな役所には、窓口ごとにバラバラのルールブックが置いてあると想像してください。「許可の出し方」「文句の受け付け方」「組織の決め方」……。これらバラバラのルールブックをまとめて棚に並べ、「この棚ぜんぶが行政法だよ」と名づけたようなものです。だから1冊ではなく、たくさんの法律の集まりなのです。
「行政法」という名前の法律は存在しない。行政に関わる多くの法律の総称が「行政法」である。共通テーマは「行政の活動を縛り、国民を守る」こと。
2. 行政法の地図——3つの分野
バラバラに見える行政法も、3つの分野に分けて整理すると、一気に見通しがよくなります。この3分けが、今後ずっと使う「地図」になります。どの法律を学んでいるときも、「これは地図のどこにいるんだろう?」と確認するクセをつけましょう。
① 行政作用法——行政が国民に“働きかける”ルール
役所が国民に対して、許可を出したり、税金をかけたり、命令したりする場面のルールです。「行政が国民にどう働きかけるか」を定めます。行政手続法(処分や行政指導の手続きのルール)などがここに入ります。行政書士試験では、行政行為・行政裁量・行政手続法・行政上の強制手段などがこの分野の中心です。
② 行政救済法——困った国民を“救う”ルール
役所のしたことで国民が困ったとき、それを取り消してもらったり、お金で償ってもらったりする仕組みです。行政不服審査法(役所に文句を言う)・行政事件訴訟法(裁判で争う)・国家賠償法(お金で償ってもらう)などが入ります。国民を守る、いわば「困ったときの駆け込み寺」。試験で最も多く出題されるのがこの分野です。
③ 行政組織法——行政の“からだ”を決めるルール
国や地方公共団体が、どんな組織でできていて、誰がどんな権限を持つかを定めます。地方自治法や国家行政組織法などです。役所という組織そのものの設計図にあたります。とくに地方自治法は行政書士試験で独立して大きく問われる重要科目です。
| 分野 | ひとことで言うと | 主な法律・テーマ |
|---|---|---|
| ① 行政作用法 | 行政が国民に働きかけるルール | 行政手続法/行政行為/行政上の強制手段 |
| ② 行政救済法 | 困った国民を救うルール | 行政不服審査法・行政事件訴訟法・国家賠償法 |
| ③ 行政組織法 | 行政の組織を決めるルール | 地方自治法・国家行政組織法 ほか |
★試験で特によく出るのは②行政救済法です。困った国民をどう救うか、がいちばんの山場になります。
3. 行政を縛る大原則——「法律による行政の原理」
役所はとても強い力を持っています。許可を出したり、税金を取り立てたりできます。その強い力を勝手に使われては困ります。そこで、行政法ぜんぶを貫く大原則があります。それが「法律による行政の原理」です。
ひとことで言えば——「行政は、法律にしたがって活動しなければならない」ということ。役所は、自分の都合でルールを作って国民に押しつけてはいけません。国会が作った法律に従って動く必要があるのです。この原理は、国会(国民の代表)が行政をコントロールするための仕組みでもあります。
「法律による行政の原理」の3つの内容
この原理は、ふつう3つの内容に分けて説明されます。1つずつ押さえましょう。
国民の権利義務に関わるルール(法規)を新しく作れるのは、国会が作る「法律」だけだという考え方です。行政が勝手に国民を縛るルールを生み出すことはできません。「ルールづくりの大もとは国会にある」というイメージです。
行政の活動は、法律に違反してはならないという原則です。すでに法律があるなら、行政はそれに逆らえません。すべての行政活動に当てはまります。「法律というルールに反することは、どんな活動でもできない」ということです。
行政が活動をするには、あらかじめ法律の根拠が必要だという原則です。問題は「どの範囲の活動に根拠が必要か」。これには争いがあり、後で見る学説の対立があります。
ここは混同しやすい超頻出ポイントです。法律の優位=「法律に反してはいけない」(すでにある法律へのブレーキ)。法律の留保=「法律の根拠がなければ動けない」(活動するための許可証)。優位=違反禁止、留保=根拠が必要と覚えましょう。
「法律の留保」の学説——どこまで根拠が必要か
「行政のどの活動に法律の根拠が必要か」については、いくつかの考え方があります。試験では名前と内容の対応が問われます。
| 学説 | 法律の根拠が必要な範囲 |
|---|---|
| 侵害留保説 | 国民の権利を制限し、義務を課す活動(侵害行政)に必要。通説・実務の立場 |
| 全部留保説 | 行政のすべての活動に根拠が必要とする立場 |
| 社会留保説 | 侵害行政に加え、社会保障など給付行政にも根拠が必要とする立場 |
| 権力留保説 | 行政が権力的に活動する場合に根拠が必要とする立場 |
★まずは侵害留保説が通説・実務であることを押さえれば十分です。「国民を傷つける(侵害する)活動には、必ず法律の根拠が要る」という考え方です。
お店の店員(行政)は、店長(国会)が決めたマニュアル(法律)にしたがって働きます。「マニュアルに反することはできない」のが法律の優位。「お客さんから何かを取り上げるような強い対応をするには、まずマニュアルに書いてある根拠が必要」なのが法律の留保(侵害留保説)。店員が自分勝手にルールを作ってお客さんに押しつけたら、大問題ですよね。それを禁じるのが法律の法規創造力です。
4. 行政上の法律関係——公法と私法
役所が関わる法律関係には、大きく2つの色合いがあります。1つは公法的な関係(役所が権力をふりかざす、上下のある関係)、もう1つは私法的な関係(役所も一般の人と同じ立場で結ぶ、対等な関係)です。
たとえば、役所が税金をかける・営業を停止させるのは公法的な関係です。一方、役所が文房具を買う・庁舎を建てる工事を発注するのは、普通の会社と同じ売買契約や請負契約であり、私法的な関係です。
公法私法二元論の「今」
かつては「公法の関係には民法はいっさい使わない」というように、公法と私法をきっぱり分ける考え方(公法私法二元論)が強く主張されていました。しかし現在は、こうした硬い区別を重視せず、それぞれの法律関係の性質に応じて、民法などの規定を使えるかどうかを個別に判断するのが一般的です。
つまり「役所のことだから民法は関係ない」と機械的に決めつけるのではなく、その関係にふさわしいルールを当てはめるという柔軟な考え方になっています。試験では「公法だから一律に民法の適用が排除される」といった極端な言い切りは誤りになりやすい、と覚えておきましょう。
「公法上の法律関係には、私法(民法)の規定はいっさい適用されない」——このような断定は誤りとされやすい表現です。現在は、関係の性質に応じて個別に判断するのが基本です。
5. 登場人物——「行政主体」と「行政機関」
行政法では、誰が活動しているのかを区別すると理解が深まります。大きく「行政主体」と「行政機関」の2つを押さえましょう。
- 行政主体=行政を行う権利義務の主体。国・都道府県・市町村などです。「責任を負う本体」であり、お金を払ったり訴えられたりする立場です。
- 行政機関=行政主体のために実際に活動する手足。大臣や知事、市長、その下で働く職員などがこれにあたります。
6種類の行政機関——役割で分ける
行政機関は、その役割によって次のように分けられます。試験では名前と役割の対応が問われます。1つずつイメージで押さえましょう。
| 機関 | 役割 | 例・イメージ |
|---|---|---|
| 行政庁 | 行政主体の意思を決定し、外部に表示できる機関。原則1人(独任制)だが委員会など合議制もある | 大臣・知事・市長・公安委員会 |
| 補助機関 | 行政庁の事務を補助する(日々の仕事をこなす手足) | 副知事・副市長・一般の職員 |
| 諮問機関(しもん) | 行政庁から問われて意見を答える。答えに拘束力はない | 各種審議会 |
| 参与機関(さんよ) | 行政庁の意思決定に参加する。その議決に拘束力がある | 議決を要する委員会など |
| 執行機関 | 国民に対して実力を行使する(強制力を実際に使う) | 警察官・徴税職員・消防職員 |
| 監査機関(かんさ) | 行政の事務や会計が正しいかチェックする | 会計検査院・監査委員 |
両方とも「外部の意見を取り入れる」点は似ていますが、答えに拘束力があるかどうかが決定的に違います。諮問機関=拘束力なし(参考意見)。参与機関=拘束力あり(その議決どおりにしなければならない)。「参与=参加して縛る」とイメージすると区別できます。
A市が建築の許可を出す場面を想像します。許可するかどうかを決めて外に伝えるのはA市長(行政庁)。その準備の事務をこなすのは市の職員(補助機関)。専門的な意見を聞くために置かれた審議会が諮問機関。そして、責任を負う本体はA市(行政主体)です。1つの場面に、いろいろな機関が登場しているのがわかりますね。
A市が許可を出すとき、責任を負う本体は「A市」(行政主体)ですが、実際に許可を決めて出すのは「A市長」(行政庁)です。会社にたとえると、行政主体が「会社そのもの」、行政庁が「契約のハンコを押す権限を持つ社長」というイメージです。
6. 権限の「代理・委任・専決」
行政庁の権限は、原則としてその行政庁自身が行使します。しかし、忙しかったり、事故があったりして、自分で全部はできないこともあります。そこで、権限を他の人に行わせる仕組みがあります。それが権限の代理と権限の委任、そして実務上の専決(代決)です。3つの違いが頻出です。
① 権限の委任
行政庁が、自分の権限の一部を他の機関に移し、その機関が自分の名前で行使することです。権限そのものが移るため、委任した側はその権限を失います。権限が移動する重大な変更なので、原則として法律の根拠が必要です。
② 権限の代理
行政庁の権限を、他の機関が「○○の代理」として行使することです。権限自体は移りません(もとの行政庁に残ったまま)。代理には2種類あります。
- 授権代理:もとの行政庁が「代理してね」と頼んで(授権して)成立する代理。権限が移るわけではないので、原則として法律の根拠は不要と考えられています。
- 法定代理:法律で定められた事由(病気・事故・欠けたときなど)が起きると、当然に代理が始まるもの。あらかじめ法律で決まっています。
③ 専決(代決)
法律上の権限はあくまで行政庁に残したまま、内部的に補助機関などに決裁させ、行政庁の名前で対外的に表示することです。あくまで役所の内部の事務処理のやり方であって、外から見れば行政庁自身が行ったように見えます。内部の話なので、原則として法律の根拠は不要です。
| 権限の委任 | 権限の代理 | 専決(代決) | |
|---|---|---|---|
| 権限は移る? | 移る(委任側は失う) | 移らない | 移らない |
| 誰の名前で行う? | 受任機関自身の名 | 「○○の代理」と示す | 行政庁の名(内部処理) |
| 法律の根拠 | 必要 | 授権代理は不要/法定代理は法定 | 不要(内部の話) |
3つの中で委任だけが、権限そのものを移転させます(だから委任した側は権限を失い、原則として法律の根拠が必要)。代理は権限が移らず、専決は内部処理にすぎません。「委任=移る・根拠必要」をまず固定しましょう。
Q1.「行政法」という名称の単一の法典が存在し、行政の活動はすべてその一つの法律に定められている。
正解は ×。「行政法」という名前の法律は存在しません。行政に関する多数の法律をまとめて呼ぶ総称が行政法です。
Q2.「法律の優位」とは、行政の活動が法律に違反してはならないとする原則であり、すべての行政活動に及ぶ。
正解は 〇。法律の優位は「法律に違反してはならない」という原則で、すべての行政活動に及びます。一方、活動に根拠を求めるのが「法律の留保」です。
Q3.侵害留保説によれば、国民の権利を制限し義務を課す行政活動には、法律の根拠が必要である。
正解は 〇。侵害留保説(通説・実務)の説明として正しい記述です。国民を侵害する(権利制限・義務賦課)活動には法律の根拠が必要とします。
Q4.許可を出すなど、意思を決定して外部に表示する権限を持つ行政機関を「補助機関」という。
正解は ×。意思を決めて外部に表示できるのは行政庁です(大臣・知事・市長など)。補助機関は行政庁の事務を補助する立場です。
Q5.諮問機関の答申には法的な拘束力があり、行政庁はその答申どおりに決定しなければならない。
正解は ×。諮問機関の答申に拘束力はありません(参考意見)。拘束力があるのは参与機関の議決です。両者の区別が頻出です。
Q6.権限の委任があると、権限は受任機関に移り、委任した行政庁はその権限を失う。
正解は 〇。委任は権限そのものが移り、委任した側は権限を失います。これに対し代理は権限が移りません。
Q7.権限の委任は内部的な事務処理にすぎないため、法律の根拠は一切不要である。
正解は ×。委任は権限そのものが移る重大な変更なので、原則として法律の根拠が必要です。「内部処理にすぎず根拠不要」なのは専決(代決)です。
「行政法」という名前の法律はある?
行政法を分ける3分野は?
「法律による行政の原理」の3つの内容は?
法律の優位と法律の留保の違いは?
法律の留保の通説・実務の立場は?
公法私法二元論の現在の考え方は?
諮問機関と参与機関の違いは?
監査機関とは?
権限の委任と代理の違いは?
専決(代決)に法律の根拠は必要?
📌 このページのまとめ
- 「行政法」という名前の法律はなく、多数の法律の総称
- 行政法は3分野=行政作用法(働きかける)・行政救済法(救う)・行政組織法(組織)
- 全体を貫く原理=法律の法規創造力・法律の優位・法律の留保
- 法律の留保は侵害留保説が通説・実務(権利制限・義務賦課に根拠が必要)
- 公法私法二元論は今は重視されず、関係の性質に応じて個別判断
- 行政機関は行政庁・補助・諮問・参与・執行・監査の6種。諮問は拘束力なし/参与はあり
- 権限は委任(移る・根拠必要)・代理(移らない)・専決(内部処理・根拠不要)を区別
- 試験で特に重いのは行政救済法の分野