第3章 行政法 行政救済 頻出

行政不服審査法

役所の処分に納得できないとき、まず役所に“もう一度考えて”と言う制度。

📖 このページでわかること

  1. 行政不服審査が「簡易迅速」で「不当も争える」救済制度であること
  2. 審査請求の対象(処分・不作為)と審査庁・要件・審査請求期間
  3. 審理員・行政不服審査会の諮問・口頭意見陳述などの審理手続
  4. 再調査の請求・再審査請求という3つの不服申立ての関係
  5. 執行停止(任意的・義務的)と教示制度
  6. 裁決の種類(却下・棄却・事情裁決・認容)と行政事件訴訟との違い
ここからは、役所の処分に納得できないときの救済のしくみを学びます。最初に登場するのが、いきなり裁判にいかずに役所へやり直しをお願いする制度です。行政救済は試験の配点が大きい最重要分野。ここは特にていねいに進めましょう。

1. 行政不服審査って何だろう

役所が出した処分(たとえば「許可しません」「課税します」といった決定)に納得できないとき、私たちには争う方法があります。その一つが行政不服審査です。

ポイントは、これは裁判ではないということ。裁判所ではなく、行政機関に対して不服を申し立て、もう一度判断し直してもらう制度です。だから手数料はかからず、手続きも比較的かんたんで、結論も早く出ます。

これだけ覚える:制度の目的は2つ

行政不服審査法の目的は、①国民の権利利益の救済と、②行政の適正な運営の確保です。手続は簡易迅速であることが特徴で、しかも裁判と違って違法だけでなく「不当」(裁量の使い方が妥当でないこと)まで争えます。

たとえ話:いきなり裁判より手軽な“やり直し依頼”

テストの採点に納得できないとき、いきなり校長や教育委員会に訴え出るより、まず採点した先生の側に「もう一度見直してください」とお願いするほうが早くて気楽ですよね。行政不服審査はこの「見直し依頼」。裁判という大きな手続きの前に使える、手軽な争い方なのです。

2. 3つの不服申立て ── 中心は審査請求

行政不服審査法が定める不服申立てには、つぎの3つがあります。基本は審査請求です。

種類だれに対して位置づけ
審査請求原則として最上級行政庁(処分庁等に上級庁がなければ処分庁等自身)原則的な不服申立て(中心)
再調査の請求処分庁法律に定めがある場合に、審査請求の前に簡易に処分を見直してもらう
再審査請求法律が定める行政庁法律に定めがある場合に、審査請求の裁決になお不服があるとき
注意:再調査の請求・再審査請求は「法律に定めがあるとき」だけ

審査請求は原則としてどの処分でもできますが、再調査の請求と再審査請求は、個別の法律にその定めがある場合に限ってできます。また、再調査の請求ができる場合でも、原則として再調査の請求を経ずに直接審査請求をしてもよい(自由選択)のが原則です。

3. 審査請求の対象 ── 処分と不作為

審査請求ができる対象は、おもに次の2つです。

具体例:返事がもらえない「不作為」

営業許可を申請したのに、相当の期間が過ぎても許可も不許可も出ない——。このような放置(不作為)も、不作為についての審査請求の対象になります。なお、不作為についての審査請求ができるのは、その申請をした本人です。

4. 審査請求の要件と期間

審査請求は、だれでも・いつまでも、というわけではありません。要件を整理します。

① だれが(請求人適格)

処分について審査請求ができるのは、その処分に不服がある者で、処分の取消しなどを求める正当な利益がある人です。処分の名あて人本人だけでなく、処分により権利利益を侵害された第三者も含まれ得ます。

② いつまでに(審査請求期間)

処分についての審査請求には期間制限があります。期間を過ぎると、原則として却下されます(正当な理由があるときは例外)。

審査請求期間(処分についての審査請求)
主観的期間:処分があったことを知った日の翌日から3か月以内(再調査の請求をした場合は、その決定を知った日の翌日から1か月以内)。
客観的期間:処分があった日の翌日から1年を経過したときは、原則としてできない。
※いずれも「正当な理由」があるときは例外が認められます。
注意:不作為の審査請求には期間制限がない

処分の審査請求には期間制限がありますが、不作為についての審査請求には期間の制限がありません。不作為(放置)はずっと続いている状態なので、いつでも申し立てられる、と考えると覚えやすいです。

③ どんな形で(書面・口頭)

審査請求は、原則として書面(審査請求書)でするのが原則です。ただし、他の法律(条例)に口頭でできる旨の定めがあるときは口頭でもできます。

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5. 公正さを支える審理手続

「役所の不服を、役所が判断する」と聞くと、身内に甘くなるのでは?と心配になりますよね。そこで現在の法律は、判断の公正さを高めるしくみを用意しています。

① 審理員による審理

審査請求があると、審査庁は、その処分に関与していない職員などを審理員に指名し、中立の立場で審理を進めさせます。処分を出した本人がそのまま判断するのではなく、いったん別の人がていねいに調べるしくみです。審理員は審理の結果をまとめた審理員意見書を作成し、審査庁に提出します。

注意:審理員を置かない場合もある

審査庁が委員会など(行政委員会等)である場合や、条例に基づく不服申立てなど、審理員による審理を行わない例外もあります。「審査請求では必ず審理員が指名される」と言い切る肢には注意しましょう。

② 行政不服審査会等への諮問

審査庁は、裁決をする前に、原則として行政不服審査会などの第三者機関に意見を求めます(諮問)。役所の外の目を入れることで、判断が独りよがりにならないようにするしくみです。ただし、審査請求人が諮問を希望しない場合など、諮問をしなくてよい例外もあります。

③ 当事者の手続的な権利

審理を充実させるため、当事者には次のような権利が認められています。

権利内容
口頭意見陳述申立てがあれば、原則として口頭で意見を述べる機会が与えられる。処分庁等に対して質問することもできる
証拠書類等の提出自分に有利な証拠書類や証拠物を提出できる
提出書類等の閲覧・写し交付提出された書類などの閲覧や写しの交付を求めることができる
物件の提出要求・検証など審理員が職権で証拠調べ(書類の提出要求、検証、審尋など)を行える
たとえ話:採点を“別の先生”と“外部の委員”がチェック

採点見直しでいえば、採点した先生とは別の先生(審理員)がもう一度答案を確認し、本人にも口頭で言い分を述べる場を用意し、さらに外部の委員会(行政不服審査会)にも意見を聞いてから最終判断する、というイメージです。身内だけで決めない工夫、と覚えましょう。

6. 執行停止 ── 原則は不停止

とても大事なルールです。審査請求をしても、その間、処分の効力・執行は止まりません。これを執行不停止の原則といいます。止めたいときは別途執行停止を申し立てて認めてもらう必要があります。

種類内容
任意的執行停止審査庁の判断で執行停止をできる(裁量)。処分庁の上級行政庁・処分庁である審査庁は、職権でも執行停止が可能
義務的執行停止重大な損害を避けるため緊急の必要があるなど一定の場合、原則として執行停止をしなければならない(公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれや本案について理由がないとみえるときを除く)
注意:「申し立てれば自動で止まる」は誤り

試験では「審査請求をすれば処分の効力は当然に停止する」といった形でよく問われます。原則は不停止。止めるには執行停止という別のアクションが必要、と区別してください。なお、不作為についての審査請求では、止めるべき処分がないため、執行停止の問題は生じません。

7. 教示制度

役所が不服申立てのできる処分をするときは、相手に対して「この処分には不服申立てができますよ。だれに、いつまでにできますよ」と教えてあげる義務があります。これを教示といいます。

万一、教示をしなかったり、間違った教示をしたりした場合には、申立てをした人が不利にならないよう、救済のルール(誤って教示された行政庁に提出された場合の取扱いなど)が用意されています。

8. 結論は「裁決」で出る

審査請求の最終的な判断を裁決といいます。中身は次の4つに整理できます。

裁決の種類どんなとき意味
却下期間切れ・請求人適格がないなど、入口の要件を満たさない中身を審理せず門前払い
棄却審理したが、請求に理由がない処分は維持(請求人の負け)
事情裁決処分は違法・不当だが、取り消すと公共の福祉に著しく反するとき請求は棄却するが、裁決で処分の違法・不当を宣言する
認容審理して、請求に理由がある処分の取消し・変更、不作為の場合は一定の措置を命ずるなど(請求人の勝ち)
注意:不利益変更の禁止

審査庁は、認容裁決で処分を変更することもできますが、審査請求人にとって不利益に処分を変更することはできません。せっかく救済を求めたのに、かえって不利になっては困るからです。

注意:裁決には拘束力がある

認容裁決などは、関係行政庁を拘束します。たとえば申請を拒否する処分が取り消されれば、処分庁は裁決の趣旨に従って改めて手続をやり直す必要があります。「裁決が出ても役所はそれに従わなくてよい」は誤りです。

9. 行政事件訴訟(裁判)との違い

次のレッスンで学ぶ裁判(行政事件訴訟)と比べると、行政不服審査の特長がはっきりします。両者は混同しやすいので、表でしっかり区別しましょう。

行政不服審査行政事件訴訟(裁判)
判断するのは行政機関裁判所
費用手数料は不要手数料がかかる
スピード簡易・迅速時間がかかりやすい
争える範囲違法だけでなく不当も争える原則として違法かどうか
執行停止の原則執行不停止執行不停止
両者の関係原則として自由選択(どちらを選んでもよい)。法律で審査請求前置が定められる場合もある

★ポイント:行政不服審査では「違法(法律違反)」だけでなく、「不当(違法ではないが妥当でない)」まで争えるのが大きな特長。裁判では原則として違法かどうかが審理されます。

演習過去問チャレンジ(○×)

Q1.審査請求をすると、その効果として、原則として処分の効力や執行は当然に停止される。

正解は ×。原則は執行不停止です。審査請求をしても処分は止まらず、止めたいときは別途執行停止を申し立てる必要があります。

Q2.行政不服審査では、処分の違法性だけでなく、その不当性についても審査の対象とすることができる。

正解は 。行政不服審査は違法だけでなく不当も争えるのが特長です。裁判(行政事件訴訟)が原則として違法性を審理するのと対比されます。

Q3.審査請求では、原則として、処分に関与していない職員などが審理員として中立の立場で審理を行う。

正解は 。判断の公正さを高めるため、原則として審理員による審理と、行政不服審査会などへの諮問というしくみが用意されています(例外あり)。

Q4.不作為についての審査請求は、不作為が続いているかどうかにかかわらず、処分の場合と同じ期間制限の中で行わなければならない。

正解は ×不作為についての審査請求には期間制限がありません。放置が続いている間はいつでも申し立てられます。

Q5.再調査の請求や再審査請求は、法律に特別の定めがなくても、すべての処分について行うことができる。

正解は ×再調査の請求・再審査請求は、個別の法律に定めがある場合に限りできます。原則的な不服申立ては審査請求です。

Q6.審査請求に理由があっても、処分を取り消すことが公共の福祉に著しく反する場合には、請求を棄却しつつ処分の違法・不当を宣言する裁決(事情裁決)がされることがある。

正解は 。これが事情裁決です。請求自体は棄却しますが、裁決の中で処分の違法・不当を宣言します。

Q7.審査庁は、審査請求に理由があると認めるときは、請求人にとって不利益となる方向に処分を変更することもできる。

正解は ×不利益変更は禁止されています。救済を求めた人がかえって不利になることは認められません。

Q8.処分についての審査請求は、原則として、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内にしなければならない。

正解は 。主観的期間は知った日の翌日から3か月、客観的期間は処分があった日の翌日から1年が原則です(正当な理由があれば例外)。

暗記一問一答
行政不服審査法の目的は?
A. 国民の権利利益の救済行政の適正な運営の確保。手続は簡易迅速。
3つの不服申立ては?
A. 審査請求(原則)、再調査の請求再審査請求。後二者は法律に定めがある場合のみ。
審査請求の対象は?
A. 処分不作為(申請への放置)。
審査請求は原則だれに対して行う?
A. 原則として最上級行政庁(上級庁がなければ処分庁等自身)。
処分についての審査請求期間は?
A. 知った日の翌日から3か月、処分があった日の翌日から1年(正当な理由があれば例外)。不作為には期間制限なし。
公正さを支えるしくみは?
A. 審理員による審理と、行政不服審査会などへの諮問(いずれも例外あり)。
審査請求人の手続的権利は?
A. 口頭意見陳述、証拠書類等の提出、提出書類の閲覧・写しの交付請求など。
審査請求と処分の効力の関係は?
A. 執行不停止の原則。止めたいときは執行停止(任意的・義務的)を申し立てる。
裁決の種類は?
A. 却下・棄却・事情裁決・認容。認容しても不利益変更はできない。
裁判(行政事件訴訟)と比べた特長は?
A. 手数料不要で簡易・迅速。違法だけでなく不当も争える。両者は原則自由選択。

📌 このページのまとめ

  • 行政不服審査=行政機関に不服を申し立てる簡易・迅速な救済。目的は権利救済と行政の適正運営
  • 不服申立ては審査請求が中心。再調査の請求・再審査請求は法律に定めがある場合のみ
  • 対象は処分不作為。処分の審査請求は知った翌日から3か月・処分日翌日から1年、不作為は期間制限なし
  • 公正さのため審理員の審理行政不服審査会への諮問(いずれも例外あり)、口頭意見陳述などの権利がある
  • 原則は執行不停止。止めるには執行停止(任意的・義務的)が必要
  • 裁決は却下・棄却・事情裁決・認容不利益変更は禁止、裁決には拘束力がある
  • 裁判と違い不当まで争え、手数料も不要。両者は原則自由選択