第3章 行政法 行政救済 頻出

行政事件訴訟法

役所の処分を裁判で争う。取消訴訟を中心に学びます。

📖 このページでわかること

  1. 行政事件訴訟の全体像(抗告訴訟・当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟)
  2. 抗告訴訟の6つの型(取消・無効等確認・不作為の違法確認・義務付け・差止)
  3. 中心となる「取消訴訟」の訴訟要件(処分性・原告適格・狭義の訴えの利益・被告適格・出訴期間)
  4. 執行停止と内閣総理大臣の異議
  5. 判決の効力(既判力・形成力・第三者効・拘束力)と事情判決
  6. 無効等確認・義務付け・差止の要件
前回は、役所に「もう一度考えて」とお願いする行政不服審査でした。今回はもう一歩進んで、裁判所に処分を取り消してもらう方法を学びます。言葉は多いですが、中心は取消訴訟。とくに「訴訟要件」と「判決の効力」は試験の山場です。ていねいに進めましょう。

1. 行政事件訴訟の全体像

役所の処分などを裁判所で争う方法が行政事件訴訟です。大きく4つの類型に分かれ、なかでも私たちが処分を争う主役は抗告訴訟です。

類型どんな訴訟か性格
抗告訴訟行政庁の公権力の行使(処分など)を争う主観訴訟(自分の権利利益のため)
当事者訴訟公法上の法律関係について対等な立場で争う主観訴訟
民衆訴訟自分の利益に関わらず、選挙の効力など公の利益を争う客観訴訟(法律に定めがある場合のみ)
機関訴訟国や自治体の機関どうしの権限争いを解決する客観訴訟(法律に定めがある場合のみ)
注意:民衆訴訟・機関訴訟は「法律に定めがあるとき」だけ

抗告訴訟と当事者訴訟は、自分の権利利益を守るための主観訴訟です。これに対し民衆訴訟・機関訴訟は、自分の権利と無関係に客観的な適法性を争う客観訴訟で、法律に定めがある場合に、定められた者だけが提起できます。

2. 抗告訴訟の6つの型

抗告訴訟はさらに細かく分かれます。中心は取消訴訟ですが、ほかの型も近年よく問われます。まず全体を表でつかみましょう。

求める内容
処分の取消しの訴え違法な処分の取消しを求める(中心)
裁決の取消しの訴え審査請求などの裁決の取消しを求める
無効等確認の訴え処分・裁決の無効や存否の確認を求める
不作為の違法確認の訴え申請への放置(不作為)が違法であることの確認を求める
義務付けの訴え行政庁に一定の処分をすべきことを命じるよう求める
差止めの訴え行政庁が一定の処分をしてはならないと命じるよう求める
たとえ話:処分を裁判所に取り消してもらう

役所が出した「不許可」という決定を、白い紙に押されたハンコだと考えてみてください。取消訴訟は、そのハンコ(処分)を裁判所に「無かったことにして」と求める手続きです。義務付けの訴えは逆に「許可のハンコを押させて」、差止めの訴えは「悪いハンコを押させないで」と求めるイメージです。

3. 【最重要】取消訴訟の訴訟要件

取消訴訟は、いきなり中身(処分が違法かどうか=本案)を判断してもらえるわけではありません。まず入口の条件(訴訟要件)をクリアする必要があります。これを欠くと、中身を審理してもらえず却下されます。

たとえ話:お店に入る前の“入店条件”

人気のレストランに「予約あり・服装OK・人数OK」でないと入れないのと同じで、裁判にも入口のチェックがあります。料理(処分が違法かどうか)の味を確かめてもらう前に、まず入店条件(訴訟要件)をクリアしないといけないのです。条件を満たさなければ、味見すらしてもらえず追い返されます(却下)。

取消訴訟のおもな訴訟要件は、次の5つです。

訴訟要件意味(やさしく言うと)
処分性争う対象が、国民の権利義務を直接左右する「処分」といえる
原告適格訴える人が、その取消しを求める「法律上の利益」を持つか
狭義の訴えの利益いま取り消してもらう現実の意味(回復すべき利益)が残っているか
被告適格原則、処分をした行政庁が所属する国・公共団体を被告とする
出訴期間原則、処分を知った日から6か月・処分の日から1年以内

① 処分性

取消訴訟で争えるのは「処分」に限られます。判例は処分性を、公権力の主体である国や公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接、国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが法律上認められているもの、と考えています。

このため、つぎのようなものは処分性が問題になります。

注意:形式名ではなく「実質」で判断

「通知」「公表」など名前が処分らしくなくても、実質的に国民の権利義務を直接左右するなら処分性が認められることがあります。逆に「決定」という名前でも、内部的な行為にすぎなければ処分性は否定され得ます。名前ではなく中身で判断するのがポイントです。

② 原告適格(法律上の利益)

誰でも訴えられるわけではなく、その処分の取消しについて「法律上の利益」を有する者だけが訴えられます。処分の名あて人本人には通常認められますが、問題になるのは処分の相手方以外の第三者(近隣住民など)です。

原告適格の判断(行政事件訴訟法9条2項の考え方)
第三者の原告適格を判断するときは、根拠法令の文言だけでなく、その法令の趣旨・目的や、処分で考慮されるべき利益の内容・性質を考え、関係する法令の趣旨・目的や、害される利益の内容・性質、害される態様・程度も勘案して、「法律上の利益」があるかを判断する。

つまり、その法律が「一般的公益の中に解消しきれない、その人個人の個別的な利益」も守ろうとしているといえる場合には、第三者にも原告適格が認められます。

具体例:近隣住民の原告適格

たとえば、危険物施設や開発などの許可について、その施設の近くに住み、事故や災害で生命・身体への直接的な被害を受けるおそれがある住民は、根拠法令がそうした個別の利益も守る趣旨と読めるとき、原告適格が認められることがあります。逆に、遠くに住み、利益の侵害が間接的・一般的にとどまる人は、原告適格が否定されやすくなります。

③ 狭義の訴えの利益

取り消してもらう現実の意味(回復すべき利益)が残っているかです。処分の効果が期間の経過などで失われ、取り消しても意味がなくなった場合には、原則として訴えの利益が消滅します。

具体例:期間の経過と訴えの利益

たとえば「○日間の営業停止」という処分について、すでにその期間が過ぎてしまえば、取り消しても止まった営業が戻るわけではないので、原則として訴えの利益は失われます。ただし、その処分があったことが将来の不利益な扱いの前提になるなど、なお回復すべき利益が残る場合には、訴えの利益が認められることがあります。

④ 被告適格

取消訴訟は、原則として処分をした行政庁が所属する国または公共団体を被告として提起します(行政庁そのものではなく、その背後の国・公共団体が被告)。

⑤ 出訴期間

取消訴訟の出訴期間(行政事件訴訟法14条)
・処分・裁決があったことを知った日から6か月を経過したときは、原則として提起できない(正当な理由があるときを除く)。
・処分・裁決の日から1年を経過したときも、原則として提起できない(正当な理由があるときを除く)。
注意:不服審査の「3か月」と訴訟の「6か月」を混同しない

審査請求の主観的期間は知った日の翌日から3か月、取消訴訟の出訴期間は知った日から6か月です。数字が違うので、どちらの制度の話かを必ず確認しましょう。混同をねらった肢が頻出です。

審査請求前置(自由選択が原則)

処分に不満があるとき、審査請求取消訴訟のどちらを選んでもよいのが原則です(自由選択主義)。ただし、個別の法律が「まず審査請求をしてからでないと訴訟を起こせない」と定めている場合(審査請求前置)には、それに従う必要があります。

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4. 執行停止と内閣総理大臣の異議

取消訴訟でも、原則は執行不停止です。訴えを起こしただけでは処分は止まりません。止めたいときは別に執行停止を申し立て、裁判所に認めてもらいます。

執行停止の要件(行政事件訴訟法25条)
処分の取消訴訟が提起されている場合に、重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は申立てにより執行停止を決定できる。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、または本案について理由がないとみえるときはできない。
注意:内閣総理大臣の異議

執行停止の申立てがあったときや、執行停止の決定があったとき、内閣総理大臣は裁判所に対して異議を述べることができます。この異議があると、裁判所は執行停止をすることができず、すでに執行停止をしているときは取り消さなければなりません。ただし、内閣総理大臣はやむを得ない場合でなければ異議を述べてはならず、異議を述べたときは次の国会で報告しなければならないとされ、安易な濫用が抑えられています。

具体例

建物の使用禁止処分を争っている間も、原則として処分は効いたまま。営業が立ちゆかなくなるような重大な損害のおそれがあるときは、執行停止を申し立てて、裁判の結論が出るまで処分を一時的に止めてもらう、という流れになります。

5. 取消訴訟の判決と効力

取消訴訟の判決には、いくつかの効力があります。ここは記述・択一とも頻出の山場です。判決の種類と効力を分けて整理しましょう。

判決の種類

判決どんなとき
却下判決訴訟要件を欠くとき。中身を審理せず門前払い
棄却判決審理したが、処分は適法で請求に理由がないとき
事情判決処分は違法だが、取り消すと公共の福祉に著しく反するとき。請求は棄却するが、主文で処分が違法であることを宣言する
認容判決処分が違法で、請求に理由があるとき。処分を取り消す

取消判決(認容判決)の効力

効力内容
既判力確定判決の判断には、後の訴訟で反することを主張できない拘束が生じる
形成力取消判決により、処分ははじめからなかったことになる(さかのぼって効力を失う)
第三者効(対世効)取消判決の効力は、当事者だけでなく第三者にも及ぶ
拘束力取消判決は、その事件について関係行政庁を拘束する。処分庁は同じ理由で同じ処分をくり返せず、申請拒否処分が取り消されたときは改めて手続をやり直す義務を負う
注意:取り消されると役所はやり直しが必要

たとえば許可申請の拒否処分が取り消された場合、その理由が違法だとされたのですから、処分庁は判決の趣旨に従って改めて申請を審査し直さなければなりません(拘束力)。「取り消されても、また同じ理由で拒否すればよい」は誤りです。

6. その他の抗告訴訟の要件

取消訴訟以外の抗告訴訟も、近年は出題が増えています。要件のキーワードを表で押さえましょう。

訴訟要件のポイント
無効等確認の訴え処分が重大かつ明白な瑕疵で無効な場合などに、確認を求める。出訴期間の制限がないのが特徴
不作為の違法確認の訴え申請をした者が、相当の期間が過ぎても処分がされない放置の違法確認を求める
義務付けの訴え一定の処分をすべきことを命じるよう求める。申請型と非申請型(直接型)がある。重大な損害のおそれなど厳しい要件
差止めの訴え処分がされる前に、してはならないと命じるよう求める。重大な損害を生ずるおそれなどが要件
これだけ覚える:無効確認は期間制限なし

取消訴訟には出訴期間(6か月・1年)がありますが、無効等確認の訴えには出訴期間の制限がありません。無効な処分は、いつまでたっても無効だからです。「出訴期間を過ぎたが処分が無効なら、無効確認の訴えで争える」という流れを押さえましょう。

7. 行政不服審査との関係の総整理

前回の行政不服審査と、今回の取消訴訟を並べて確認しておきましょう。

審査請求(不服審査)取消訴訟(裁判)
相手行政機関裁判所(被告は国・公共団体)
費用・スピード手数料不要・迅速手数料あり・時間がかかる
争える範囲違法+不当原則として違法かどうか
期間知った翌日から3か月・処分日翌日から1年知った日から6か月・処分日から1年
どちらを選ぶ?原則として自由に選べる(自由選択主義)。法律で審査請求前置が定められる場合は例外

★ポイント:手軽さなら審査請求、公平な第三者の判断なら取消訴訟。原則は自由選択ですが、法律で「まず審査請求を経てから」と定められている場合(審査請求前置)もあります。

演習過去問チャレンジ(○×)

Q1.取消訴訟では、処分が違法かどうかという中身さえ争えればよく、原告適格や出訴期間などの入口の条件は問題とならない。

正解は ×。中身を審理してもらうには、まず訴訟要件(処分性・原告適格・狭義の訴えの利益・被告適格・出訴期間)を満たす必要があります。欠けると却下されます。

Q2.処分の取消しを求める者は、原則として、審査請求を経ることなく直ちに取消訴訟を提起することができる。

正解は 。原則は自由選択主義です。ただし法律が審査請求前置を定めている場合は、まず審査請求を経る必要があります。

Q3.取消訴訟を提起すると、その提起によって当然に処分の効力が停止する。

正解は ×。取消訴訟でも原則は執行不停止です。止めたいときは別途執行停止を申し立て、重大な損害を避ける緊急の必要などが認められる必要があります。

Q4.無効等確認の訴えは、取消訴訟と同様に、処分を知った日から6か月という出訴期間の制限を受ける。

正解は ×無効等確認の訴えには出訴期間の制限がありません。無効な処分はいつまでも無効だからです。

Q5.取消判決が確定すると、その効力は当事者だけでなく第三者に対しても及ぶ。

正解は 。取消判決には第三者効(対世効)があり、当事者以外の第三者にも効力が及びます。

Q6.処分が違法であっても、これを取り消すことが公共の福祉に著しく反する場合には、請求を棄却しつつ判決の主文で処分の違法を宣言する事情判決がされることがある。

正解は 。これが事情判決です。請求は棄却しますが、主文で処分の違法を宣言します。

Q7.申請を拒否する処分が取消判決により取り消された場合、処分庁は判決の趣旨に従って改めて申請を審査しなければならない。

正解は 。取消判決の拘束力により、処分庁は判決の趣旨に従って手続をやり直す義務を負います。同じ理由で同じ処分をくり返すことはできません。

Q8.処分の相手方以外の第三者は、いかなる場合であっても、その処分の取消しを求める原告適格を有しない。

正解は ×。第三者でも、根拠法令の趣旨・目的などから、一般的公益に解消されない個別的利益が守られていると認められれば、原告適格(法律上の利益)が認められます。

暗記一問一答
行政事件訴訟の4類型は?
A. 抗告訴訟・当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟。民衆・機関訴訟は法律に定めがある場合のみ。
抗告訴訟の主な型は?
A. 取消訴訟(処分・裁決)、無効等確認、不作為の違法確認、義務付け・差止め
取消訴訟の訴訟要件5つは?
A. 処分性・原告適格・狭義の訴えの利益・被告適格・出訴期間
処分性とは?
A. 公権力の行使として、直接国民の権利義務を形成・確定する行為かどうか。名前でなく実質で判断。
原告適格の基準は?
A. 法律上の利益。一般的公益に解消しきれない個別的利益が法令で守られているか。
取消訴訟の出訴期間は?
A. 知った日から6か月、処分の日から1年(正当な理由があれば例外)。
執行停止の要件と例外は?
A. 重大な損害を避けるため緊急の必要。公共の福祉への重大な影響、本案に理由がないとみえるときは不可。内閣総理大臣の異議もある。
取消判決の主な効力は?
A. 既判力・形成力・第三者効・拘束力
事情判決とは?
A. 違法だが取消しが公共の福祉に著しく反するとき、請求を棄却し主文で違法を宣言する判決。
無効等確認の訴えの特徴は?
A. 出訴期間の制限がない。無効な処分はいつまでも無効だから。

📌 このページのまとめ

  • 行政事件訴訟は抗告訴訟・当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟。後二者は法律に定めがある場合のみ
  • 抗告訴訟の中心は取消訴訟。ほかに無効等確認・不作為の違法確認・義務付け・差止め
  • 取消訴訟の訴訟要件は処分性・原告適格・狭義の訴えの利益・被告適格・出訴期間。欠けると却下
  • 原告適格は法律上の利益(個別的利益が守られているか)、処分性は実質で判断
  • 出訴期間は知った日から6か月・処分日から1年。原則は自由選択、例外で審査請求前置
  • 原則は執行不停止。執行停止は重大な損害を避ける緊急の必要が要件で、内閣総理大臣の異議がある
  • 取消判決には既判力・形成力・第三者効・拘束力。違法でも取消せないときは事情判決
  • 無効等確認の訴えには出訴期間の制限がない