第3章 行政法 頻出・条文つき 国民を救うしくみ

国家賠償

役所のせいで損害を受けたら、国や自治体にお金を請求できる。

📖 このページでわかること

  1. 「国家賠償」とは何か(国や自治体にお金を請求するしくみ)
  2. 国家賠償法1条の5つの要件(公権力の行使・職務・故意過失・違法・損害)
  3. 公務員個人は責任を負うのか、求償はどんなときにできるのか
  4. 規制権限の不行使(取り締まらなかった責任)という応用論点
  5. 国家賠償法2条(道路や施設の欠陥)と「無過失責任」の意味
  6. 1条と2条のいちばん大事な違い、費用負担者(3条)・相互保証(6条)
前回までは「役所の処分を争う」方法を学びました。今回は、役所のせいで損害を受けてしまったときに、国や自治体にお金で償ってもらうしくみです。国家賠償法は条文がたった6か条しかありませんが、行政法の中でも判例がとても多く、毎年のように出題される最重要分野のひとつです。1条と2条の2本立て、と覚えてくださいね。落ち着いて一つずつ整理していきましょう。

1. 「国家賠償」ってなに?

私たちは、ふつう、誰かに損害を与えたら、その人がお金で賠償します。これを民法では不法行為といいます。では、損害を与えた相手が「国や自治体(役所)」だったらどうでしょう。

「国は特別だから、ミスをしても許される」——そんなことはありません。憲法17条は、公務員の不法行為で損害を受けた国民は、国や公共団体に賠償を求めることができると定めています。この約束を具体化したのが国家賠償法です。

憲法 17条

何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

たとえ話:お店の店員さんがやらかしたら

レストランの店員さんがミスをしてあなたの服を汚したら、ふつうはお店(会社)が弁償してくれますよね。店員さん個人を追いかけ回す必要はありません。
国家賠償も同じ考え方です。公務員という「店員さん」がやらかしたら、国や自治体という「お店」が責任を取って賠償してくれる、というわけです。

国家賠償には大きく2つのパターンがあります。これがそのまま条文の1条・2条に対応します。

国家賠償法は「民法の特別ルール」

国家賠償法には書かれていないことは、民法が補ってくれます(国家賠償法4条)。たとえば、賠償額の計算や、過失相殺(被害者にも落ち度があれば賠償を減らす)といった考え方は、民法のルールが使われます。国家賠償法は、いわば「役所版の不法行為ルール」だとイメージするとわかりやすいです。

2. 国家賠償法1条 ── 公務員の違法な行為

まず1条です。公務員が、その仕事(公権力の行使)として、違法に、しかもわざと(故意)かうっかり(過失)で国民に損害を与えたとき、国や公共団体が賠償する、というルールです。

国家賠償法 1条1項

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

賠償するのは国や公共団体です。条文の言葉を分解すると、次の5つの要件がそろったときに成立します。試験ではこの5つを一つずつチェックさせる問題が出ますので、丁寧に見ていきましょう。

  1. 公権力の行使にあたる行為であること
  2. 公務員がその職務を行うについてしたこと
  3. 故意または過失があること
  4. 違法に損害を加えたこと
  5. 他人に損害が生じたこと

要件①:「公権力の行使」とは ── 広く考える

ここでいう「公権力の行使」は、許可や命令のような典型的な行政処分だけを指すのではありません。判例は、これを広くとらえます。国や公共団体の作用のうち、純粋な私経済作用(民間と同じような取引)と、2条で扱う営造物の設置管理を除いた、すべての活動が含まれると考えられています。

そのため、学校の先生が体育の授業で行う指導や、行政指導、警察官のパトロールなども「公権力の行使」に含まれます。「権力的に命令する場面だけ」と狭く考えないのがポイントです。

具体例

公立学校の体育の授業中、先生の指導が不適切だったために生徒がケガをした。これも先生の「公権力の行使」(教育活動)として、1条の対象になります。「処分」でなくても1条が使われる、という良い例です。

要件②:「職務を行うについて」 ── 外から見て職務に見えるか

公務員が、職務とまったく関係ない私的な行動で他人を傷つけても、それは国家賠償にはなりません。しかし、判例は、たとえ公務員が本心では私利私欲のために動いていたとしても、客観的に見て職務の外形をそなえていれば、国は責任を負うとしています(外形標準説・外形理論)。

具体例

警察官が、制服を着て職務を装いながら、実は自分の利益のために他人から金品を奪った——というケース。本人の内心は「職務」ではありませんが、外から見れば警察の職務に見えます。被害者を守るため、こうした場合も国は責任を負うとされました。被害者は「本当に職務だったか」を見抜けないからです。

要件③:「故意または過失」

1条は、公務員に故意(わざと)または過失(うっかり)があったことが必要です。ここが、あとで学ぶ2条(無過失責任)との決定的な違いになります。

要件④:「違法」 ── 職務行為基準説という考え方

1条の「違法」は、単に「結果的に処分が間違っていた」ことを意味しません。判例は、公務員が職務上つくすべき注意義務をつくしたかどうかで違法性を判断する考え方(職務行為基準説)をとる場面があります。

「結果が間違い」=必ず「違法」ではない

たとえば、税務署が課税処分をしたあとで「この処分は取り消すべきだった」とされても、それだけで国家賠償法上ただちに「違法」になるわけではありません。担当公務員がその時点で求められる注意義務をつくしていれば、国家賠償の関係では違法とならないことがあります。処分の取消しの場面の「違法」と、国家賠償の「違法」は、別々に判断される——この感覚はとても大切です。

要件⑤:「損害」

財産的な損害だけでなく、精神的な損害(慰謝料)も含みます。違法な行為と損害との間に因果関係が必要です。

具体例(5要件がそろうケース)

警察官が、まったく無関係の人を犯人と勘違いし、注意義務をつくさずに違法に逮捕してしまった。
→ ①公権力の行使にあたり、②職務として行われ、③過失があり、④違法で、⑤損害が生じている。5つそろうので国や自治体が賠償します。

公務員個人は責任を負う?

ここはとても大事な論点です。被害者は国や公共団体に請求します。では、ミスをした公務員個人に「あなたが払って」と直接請求できるのでしょうか。

公務員個人は、被害者に対して責任を負わない(原則)

判例上、被害者は公務員個人には直接請求できません。公務員が「自分のお金で弁償しなきゃ」とビクビクして仕事ができなくなるのを防ぐためです。請求先はあくまで国・公共団体です。これは、被害者に酷というより、むしろ資力の確実な国に請求できるので被害者にとって有利でもある、と理解しておきましょう。

あとで公務員に「弁償して」と言える?(求償)

国や自治体が被害者に賠償した後、その公務員に「あなたのミスなんだから、こっちが払った分を返して」と言えるか。これを求償(きゅうしょう)といいます。

国家賠償法 1条2項

前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

つまり、求償できるのは公務員に故意または「重過失」があったときだけ。ちょっとしたうっかり(軽過失)では求償できません。

注意:「過失」と「重過失」を取り違えない

国が被害者に賠償する条件は「故意または過失」(軽い過失でもOK)。
国が公務員に求償する条件は「故意または重過失」(重いミスのときだけ)。
「賠償は過失で足りる/求償は重過失が必要」——この違いがよく狙われます。

応用論点:規制権限の「不行使」も責任になる

これまでは「役所が何かをした」結果の責任でした。逆に、役所が取り締まるべきだったのに、何もしなかった(不作為)ために被害が広がった——こういう場合も国家賠償が成立しうる、という重要論点があります。

規制権限の不行使(不作為)の違法

役所が、ある危険を防ぐための権限(規制や監督の権限)を持っていながら、それを使わなかった。その結果として国民に被害が及んだとき、権限を使わなかったことが、その権限を与えた法律の趣旨・目的に照らして著しく不合理と認められる場合には、不行使が違法と評価され、国家賠償の対象になりえます。

たとえ話:見回り役が見て見ぬふりをしたら

マンションの管理人さんが、明らかに危ない状態(壊れかけの手すりなど)に気づいていたのに、何もせず放置して住民がケガをした。「何もしなかった」こと自体が落ち度になりますよね。役所も、危険を防ぐ権限を持ちながら著しく不合理に放置すれば、その「しなかったこと」を理由に責任を問われることがあるのです。

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3. 国家賠償法2条 ── 道路や施設の欠陥

次は2条です。こちらは公務員の「行為」ではなく、道路・河川・公園・建物といった公の営造物(公共の施設)に欠陥があって、人が損害を受けた場合のルールです。

国家賠償法 2条1項

道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

公の営造物とは、国や公共団体が公の目的に使っている物のことで、道路・河川・公園・港湾・庁舎・学校の施設などが含まれます。動かない不動産だけでなく、公用車や拳銃のような動産も含まれると考えられています。

瑕疵(かし)とは、その営造物が「通常有すべき安全性」を欠いていること、つまり「欠陥・不具合」のことです。判例は、瑕疵があるかどうかを、その営造物の構造・用法・場所的環境・利用状況などを総合して判断するとしています。

たとえ話:道路の陥没でケガ

市が管理する道路に大きな穴が空いたまま放置されていて、あなたがそこに落ちてケガをした。
この場合、誰かがわざと穴を空けたわけでも、特定の公務員がうっかりしたわけでもないかもしれません。それでも「道路という施設が、本来あるべき安全性を欠いていた」といえます。これが2条の「設置・管理の瑕疵」。市が賠償することになります。

2条のいちばんの特徴 ── 無過失責任

2条のキモは、ここです。1条は「故意・過失」が必要でしたが、2条は過失がなくても責任を負います。これを無過失責任といいます。

2条は「無過失責任」

施設に欠陥(瑕疵)があって損害が出れば、管理者に「うっかりした」という過失があったかどうかを問わず、国・公共団体は賠償責任を負います。被害者は「過失があったこと」を証明しなくてよいので、救済されやすいのです。瑕疵(安全性の欠如)さえあれば足りる、というのが2条の発想です。

例外的に責任を免れる場合 ── 不可抗力

無過失責任といっても、管理者がどんな場合でも必ず賠償するわけではありません。被害が、予測も回避もできなかった天災(不可抗力)によるもので、営造物の安全性とは無関係だった場合には、瑕疵がないとして責任を免れることがあります。

注意:「予算が足りなかった」という言い訳(予算抗弁)は通りにくい

「お金がなかったから安全対策ができなかった」という予算抗弁は、原則として認められにくいとされています。財政上の都合は、安全性を欠いてよい理由にはならないからです。道路のように人の通行が予定された施設では、とくに高い安全性が求められます。一方で、自然のままの河川については、人工の道路とは安全性の判断基準がやや異なる、と考えられている点も押さえておきましょう。

4. 【最重要】1条と2条の比較表

試験では、1条と2条を取り違えさせる問題が頻出です。とくに「過失が必要か」の違いを表で固めましょう。

1条(行為)2条(施設)
原因公務員の違法な行為公の営造物の設置・管理の瑕疵
故意・過失は必要?必要
故意または過失
不要
無過失責任
キーになる言葉違法・過失通常有すべき安全性を欠く=瑕疵
賠償する人国・公共団体国・公共団体
典型例違法な逮捕・違法な処分道路の陥没・橋の欠陥

★ポイント:「2条=無過失責任(過失不要)」がいちばんの差。「道路の陥没=2条」とセットで覚えると迷いません。

5. 賠償する人と費用を負担する人(3条)

ここはやや細かいですが、よく問われます。公務員を選んで監督する団体と、その活動の費用(給料など)を負担する団体が別々のことがあります。たとえば、ある事務を県の職員が行うけれど、その費用は国が出している、というケースです。

国家賠償法 3条1項

前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と、公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。

被害者は「どちらにも」請求できる

監督する団体と費用を負担する団体が違うときは、被害者はそのどちらに対しても賠償を請求できます。被害者を確実に救済するための配慮です。
そして、最終的に負担すべきでない団体が支払った場合は、本来負担すべき団体に対してあとで求償できる(3条2項)とされています。「被害者にはどちらでも請求させる、内部の精算はあとで」という二段構えです。

6. 外国人が被害者のとき ── 相互保証(6条)

国家賠償法は、被害者が外国人のときに、ひとつ条件をつけています。

国家賠償法 6条

この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。

相互保証主義

外国人が被害者の場合、その外国人の母国でも、日本人が同じように賠償を受けられる保証(相互の保証)があるときに限って、日本の国家賠償法が適用されます。「お互いさまの関係があるなら適用する」という考え方です。日本人どうしの場合には、もちろんこの条件は関係ありません。

7. 求償・救済のしくみをまとめると

誰が誰に請求・求償できるのか、混乱しやすいので整理します。

演習過去問チャレンジ(○×)

Q1.国家賠償法2条に基づく責任が成立するには、公の営造物の管理者に故意または過失があったことが必要である。

正解は ×。2条は無過失責任です。設置・管理に瑕疵があれば、管理者の故意・過失がなくても賠償責任を負います。過失が必要なのは1条のほうです。

Q2.国家賠償法1条により損害を受けた者は、加害行為をした公務員個人に対しても、直接に損害賠償を請求することができる。

正解は ×。判例上、被害者は公務員個人には直接請求できません。請求先は国または公共団体です。

Q3.国または公共団体が被害者に賠償したとき、加害公務員に軽い過失があれば、その公務員に求償することができる。

正解は ×。求償できるのは公務員に故意または重過失があったときだけ(1条2項)。軽過失では求償できません。

Q4.公務員が、もっぱら自分の利益をはかる目的で行った行為であっても、客観的に職務行為の外形をそなえている場合には、国または公共団体は賠償責任を負うことがある。

正解は 。判例は、公務員の内心が私利目的でも、客観的に職務の外形をそなえていれば「職務を行うについて」にあたるとしています(外形標準説)。被害者保護のためです。

Q5.公の営造物の設置・管理の瑕疵とは、その営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。

正解は 。瑕疵とは、営造物が「通常有すべき安全性」を欠いていることです。安全性を欠いていれば、管理者の過失がなくても2条の責任が生じます。

Q6.公務員の監督に当たる者と、その費用を負担する者とが異なる場合、被害者は費用を負担する者に対しても賠償を請求することができる。

正解は 。国家賠償法3条1項により、費用を負担する者も賠償責任を負います。被害者はどちらにも請求でき、団体間でのちに精算(求償)します。

Q7.外国人が被害者である場合には、相互の保証の有無にかかわらず、つねに国家賠償法が適用される。

正解は ×。外国人が被害者の場合は、相互の保証があるときに限り適用されます(6条)。つねに適用されるわけではありません。

Q8.行政庁が規制権限を行使しなかった(不作為)ことが、その権限を定めた法律の趣旨・目的に照らして著しく不合理と認められるときは、国家賠償法上違法と評価されることがある。

正解は 。規制権限の不行使(不作為)も、著しく不合理と認められる場合には違法となり、国家賠償の対象になりえます。

暗記一問一答
国家賠償法1条はどんな場合の責任?
A. 公務員が公権力の行使として、職務を行うについて故意・過失違法に損害を与えた場合。
1条の「公権力の行使」はどのくらい広い?
A. 行政処分だけでなく、私経済作用と2条の営造物管理を除く、広い範囲の活動を含む(学校の指導・行政指導なども含む)。
公務員が私利目的でも国は責任を負う?
A. 客観的に職務の外形をそなえていれば負う(外形標準説)。
国家賠償法2条はどんな場合の責任?
A. 公の営造物(道路・河川など)の設置・管理の瑕疵で損害が生じた場合。
2条の「瑕疵」とは?
A. 営造物が通常有すべき安全性を欠いていること。
1条と2条、過失が必要なのはどっち?
A. 1条は必要(故意・過失)。2条は不要(無過失責任)。
被害者は公務員個人に請求できる?
A. 原則できない。請求先は国・公共団体
国が公務員に求償できるのはどんなとき?
A. 公務員に故意または重過失があったとき(1条2項)。
監督者と費用負担者が違うとき、被害者は誰に請求?
A. どちらにも請求できる(3条)。団体間でのちに求償する。
外国人が被害者のときの条件は?
A. 相互の保証があるときに限り適用(6条)。

📌 このページのまとめ

  • 国家賠償=役所のせいで損害を受けたとき国・公共団体に賠償を求めるしくみ(根拠は憲法17条)
  • 1条=公務員の違法な行為。要件は公権力の行使・職務・故意過失・違法・損害
  • 「公権力の行使」は広くとらえる。私利目的でも外形が職務なら責任を負う
  • 規制権限の不行使も、著しく不合理なら違法になりうる
  • 2条=公の営造物の設置・管理の瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)。無過失責任
  • 被害者は公務員個人には直接請求できない。求償は故意・重過失のときだけ
  • 監督者と費用負担者が違えばどちらにも請求可(3条)、外国人は相互保証(6条)