第3章 行政法 頻出・暗記多め 身近なしくみ

地方自治法

身近な自治体のしくみ。条例・議会・住民の権利。

📖 このページでわかること

  1. 地方自治の本旨(住民自治・団体自治)という土台の考え方
  2. 地方公共団体の種類(普通・特別)と住民の権利
  3. 長と議会の関係(二元代表制・再議・不信任と解散・専決処分)
  4. 条例と規則のちがい、条例は「法律の範囲内」という限界と罰則
  5. 直接請求の4タイプと必要な署名数
  6. 住民監査請求と住民訴訟(4類型・監査請求前置)、国の関与
最後は地方自治法です。これまでより、ぐっと身近な話。あなたが住んでいる市や県のしくみそのものです。条文の量が多く、数字(署名数や任期)の暗記も求められますが、「自分の住む市のルール=条例」のように、身のまわりに引きつけて覚えると、暗記がぐっと楽になりますよ。一つずつ、丁寧に積み上げていきましょう。

1. 地方自治の土台 ── 「地方自治の本旨」

そもそも、なぜ国とは別に「地方自治」があるのでしょうか。憲法は、地方自治は「地方自治の本旨」にもとづいて運営される、と定めています。この「本旨」は、2つの要素からできています。

地方自治の本旨=「住民自治」+「団体自治」

住民自治……その地域のことは、そこに住む住民自身の意思で決める、という考え方(民主主義的な側面)。住民が長や議員を選び、直接請求などで参加することがこれにあたります。
団体自治……国から独立した地方公共団体が、自分の責任で地域のことを処理する、という考え方(自由主義・分権的な側面)。条例を作ったり、自治体が独自に事務を行ったりすることがこれにあたります。

たとえ話:自分たちのことは自分たちで

サークルの運営を考えてみましょう。メンバー自身で話し合って物事を決めるのが住民自治。そのサークルが、大学本部とは別に、自分たちの裁量で予算を使い活動できるのが団体自治。住民が決める(住民自治)と、団体が独立して動く(団体自治)の2本柱、と覚えてください。

2. 地方公共団体には2種類ある

都道府県や市町村のことを、まとめて地方公共団体(自治体)といいます。これには大きく普通特別の2種類があります。

普通地方公共団体特別地方公共団体
含まれるもの都道府県市町村特別区(東京23区)・地方公共団体の組合財産区
性格一般的・基礎的な自治体特別な目的・事情のために置かれる
まずここを区別

都道府県・市町村=普通地方公共団体。特別区・組合・財産区=特別地方公共団体。
とくに特別区(東京23区)は「特別」のほうに入る、という点が狙われます。「区だから市と同じ普通」と勘違いしないようにしましょう。

注意:特別地方公共団体の3つを取り違えない

特別区……東京23区。市に近い基礎的自治体としての性格を持ちます。
組合……複数の自治体が、ごみ処理や消防などの事務を共同で処理するために作る団体。
財産区……一部の区域が、山林・温泉など特定の財産を持ち管理するための団体。
「3つの特別」をセットで思い出せるようにしておきましょう。

住民の権利

その地域に住所をもつ人が住民です。住民は、自治体の役務(サービス)をひとしく受ける権利と、負担を分かち合う義務をもちます。さらに、選挙権・被選挙権や、このあと学ぶ直接請求・住民監査請求・住民訴訟といった参加のしくみが用意されています。これらは住民自治を具体化したものです。

3. 長と議会 ── 「二元代表制」

自治体には、長(知事・市町村長)議会(議員)がいます。ポイントは、どちらも住民が直接選挙で選ぶということ。これを二元代表制といいます。

たとえ話:国とのちがい

国では、私たちが選ぶのは国会議員だけ。総理大臣は国会議員の中から選ばれます(議院内閣制)。
ところが地方では、知事・市長も、議員も、どちらも住民が直接選びます。長と議会という2つの代表が、おたがいをチェックしながら自治体を運営する——これが二元代表制です。

長と議会は、おたがいに緊張関係をもってチェックし合います。その代表的なしくみを順に見ていきましょう。

(1) 再議 ── 長が議会に「もう一度考えて」と求める

議会の議決に長が異議をもったとき、長はその議決をもう一度審議し直すよう求めることができます。これが再議です。長が議会に対してもつ拒否権のようなしくみ、とイメージしてください。再議に付された議決を議会がもう一度可決するには、より重い多数(特別多数)が求められる場合があります。

(2) 不信任と解散 ── おたがいの「切り札」

議会と長の対立が深刻になったときの、おたがいの最終手段です。

不信任→解散→(しなければ)失職、という流れ

議会が長の不信任の議決をすると、長は対抗して議会を解散することができます。長が一定期間内に議会を解散しなければ、長のほうが失職します。
また、解散後の新しい議会があらためて不信任を議決したときは、長は失職します。「不信任には解散で対抗できるが、二度目はもう逃げられない」というイメージです。

たとえ話:にらみ合いの最終手段

議会が「あなたを信任しない(不信任)」と長に突きつける。長は「ならば議会ごと選び直しだ(解散)」と返す。それでも新しい議会がまた「やはり信任しない」と言えば、長は職を去る——おたがいに切り札を持ち、最後は住民の選挙が決着をつける、という構図です。

(3) 専決処分 ── 議会の代わりに長が決める

本来、議会が議決すべきことを、例外的に長が代わって処分するのが専決処分です。

専決処分には2つのタイプがある

議会が開けない・議決すべき事件を議決しないなど、やむを得ない事情があるとき、長が議会に代わって処分する(緊急的なもの)。この場合、長は次の議会に報告し、承認を求めなければなりません
議会があらかじめ「これは長に任せる」と指定(委任)した軽易な事項について、長が処分する(あらかじめの委任によるもの)。
①は「議会が動けないときの緊急対応」、②は「議会公認の事前委任」と区別しておきましょう。

4. 条例と規則

自治体は、自分たちのルールを作れます。それが条例規則です。これは団体自治のあらわれです。

たとえ話:自分の住む市のルール=条例

「このまちではゴミ出しはこの曜日」「路上喫煙は禁止」——こうした、その地域だけのルールが条例です。住民の代表である議会が話し合って決めるので、まさに「自分たちのまちのルール」なのです。

条例には大事な限界がある ── 「法律の範囲内」

条例は何でも自由に作れるわけではありません。「法律の範囲内」で作らなければならない、という限界があります。これは憲法94条が定めるルールです。

憲法 94条

地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

「法律の範囲内」をどう判断する?

では、ある条例が「法律の範囲内」かどうかは、どう判断するのでしょう。判例は、条文の文字づらを単純に比べるのではなく、それぞれの趣旨・目的・内容・効果を比べて、両者の間に矛盾・抵触があるかどうかで実質的に判断するという考え方を示しています。

法律より厳しい条例もありうる(趣旨しだい)

たとえば、ある事項について法律が規制していても、その法律が「全国一律でこれ以上は規制させない」という趣旨ではないなら、地域の事情に応じて法律より厳しい(あるいは法律のない分野を補う)条例も、法律の範囲内として許される場合があります。逆に、法律が全国一律の取扱いを求めている趣旨なら、それを乱す条例は許されません。「法律と矛盾するか」は趣旨を見て判断する、と押さえてください。

条例で罰則を定められる?

条例に違反した人に、罰金などの罰則をつけることができます。本来、罰則は法律でしか定められないのが原則(罪刑法定主義)ですが、地方自治法という法律が「条例で罰則を定めてよい」と認めているため、条例に罰則を置くことが許されます。

注意:「条例だから罰則は一切ダメ」ではない

条例には、地方自治法が定める範囲内で罰則(懲役・罰金・過料など)を定めることができます。「法律でないから刑罰は設けられない」と早合点しないこと。法律の委任にもとづくものとして許される、という理屈を覚えておきましょう。

条例規則
作る人議会
性格住民代表が定める地域のルール長が定めるルール
罰則懲役・罰金などを定めうる過料を定めうる
限界どちらも法令(法律など)に違反できない/条例は「法律の範囲内」
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5. 住民の権利① ── 直接請求

地方自治では、住民が政治に直接かかわるしくみが用意されています(住民自治のあらわれ)。その代表が直接請求。一定数の住民の署名を集めて、自治体に直接「お願い(請求)」できる制度です。

直接請求は4タイプあります。請求の重さによって、必要な署名数と請求先・その後の手続が変わります。ここは表で一気に固めましょう。

請求の種類必要な署名数
(選挙権をもつ住民の…)
請求先その後
条例の制定・改廃50分の1以上長が議会にかけ、議会が議決
事務の監査50分の1以上監査委員監査委員が監査し結果を公表
議会の解散原則3分の1以上選挙管理委員会住民投票で過半数の同意があれば解散
解職(リコール)
長・議員・主要公務員
原則3分の1以上選挙管理委員会等住民投票で過半数の同意があれば失職等

★大きな分かれ目は「軽い2つ=50分の1/重い2つ=原則3分の1」。条例制定・事務監査は50分の1、議会解散・解職は原則3分の1。人や議会の進退に関わる重い請求ほど、ハードルが高くなります(※有権者数が多い自治体では3分の1の要件が緩和されるしくみもあります)。

請求先のちがいに注意

条例の制定・改廃事務の監査……50分の1。条例はへ、事務監査は監査委員へ。
議会の解散解職……原則3分の1。選挙管理委員会などへ請求し、最後は住民投票で決着。
「署名数」と「請求先」をセットで覚えるのがコツです。

具体例

「このまちにこういう条例を作ってほしい」と思った住民が、有権者の50分の1以上の署名を集めて、に条例の制定を請求する。長はこれを議会にかけ、議会が議決します。住民が自分たちの手で、まちのルール作りに動けるしくみです。

注意:条例制定請求から外れるものがある

住民が直接請求できる「条例の制定・改廃」には、対象から外されているものがあります。代表的には、地方税の賦課徴収や、分担金・使用料・手数料の徴収に関する条例は、直接請求の対象になりません。「税金を軽くしてほしい」といった請求を、署名だけで通せるわけではない、ということです。

6. 住民の権利② ── 住民監査請求と住民訴訟

自治体のお金や財産の扱いがおかしい(違法・不当)と思ったとき、住民が動けるしくみがあります。これは2段階で進みます。

  1. 住民監査請求……まず、自治体の監査委員に「このお金・財産の扱いを調べて正してほしい」と請求する。
  2. 住民訴訟……監査請求をしたうえで、それでも納得できなければ、裁判所に訴える。

住民監査請求のポイント

対象は「財務会計上の行為」、住民は「1人でもできる」

住民監査請求の対象は、公金の支出・財産の管理・契約・債務の負担など、お金や財産に関する行為(財務会計上の行為)に限られます。役所のあらゆる行為を広く争えるわけではありません。
また、住民監査請求や住民訴訟は住民が1人でも提起でき、署名を集める必要はありません(直接請求とのちがいに注意)。一方で、原則として、その行為があった日などから1年以内に請求しなければならないという期間制限があります。

住民訴訟は「監査請求を先にする」のが絶対条件

注意:いきなり住民訴訟はできない(監査請求前置)

住民訴訟を起こすには、先に住民監査請求をしておくことが必要です(監査請求前置)。順番は「まず監査請求 → それから訴訟」。いきなり裁判には飛べない点が、くり返し狙われます。

たとえ話:まず社内で相談、それでもダメなら外へ

会社でお金の使い方に疑問を感じたら、まずは社内のチェック担当に相談しますよね。それでも解決しなければ、外(裁判所)に持ち込む。住民監査請求が「社内のチェック担当(監査委員)への相談」、住民訴訟が「外の裁判所への持ち込み」にあたります。

住民訴訟の「4類型」

住民訴訟で裁判所に求められることは、大きく4つのタイプに分かれます。細かいですが、頻出なので表で整理します。

求める内容ざっくり言うと
1号違法な行為の差止め「やめさせて」(これからの支出などを止める)
2号行政処分の取消し・無効確認「その処分を取り消して/無効と確認して」
3号違法な怠る事実の違法確認「やるべきことをやっていないのは違法だと確認して」
4号損害賠償・不当利得返還を求めるよう、自治体(長など)に請求することを求める「損害を出した人に、お金を取り戻すよう自治体に求めて」
4号は「いったん自治体を通す」しくみ

とくに重要なのが4号です。住民が、損害を出した相手(職員など)に直接お金を払えと訴えるのではありません。「自治体(長など)に対して、損害賠償などを請求するよう求める」という、ワンクッション置いた形になっています。住民が自治体に代わって、財産を守るよう促す訴訟、とイメージしてください。

注意:直接請求と住民監査請求・住民訴訟を混同しない

直接請求……一定数の署名が必要。条例制定・事務監査・解散・解職など。
住民監査請求/住民訴訟……住民1人でもでき、対象は財務会計上の行為。住民訴訟には監査請求前置がある。
「署名がいるか」「財務会計上の行為に限るか」で見分けると混乱しません。

7. 国の関与 ── 国と地方は「対等・協力」

かつて、国の仕事を地方に丸投げする「機関委任事務」というしくみがありましたが、これは廃止され、現在は自治体の事務は自治事務法定受託事務に整理されています。そのうえで、国が地方に口を出す(関与)には、ルールがあります。

国の関与は「法律の根拠」と「必要最小限」が原則

国(や都道府県)が地方公共団体に関与するには、法律またはこれにもとづく政令の根拠が必要で、しかも目的を達するために必要な最小限度でなければならない、とされています。国と地方は上下・主従ではなく、できるだけ対等・協力の関係で、というのが地方分権後の基本思想です。

たとえ話:親会社と子会社ではなく、対等な取引先

昔の国と地方は「親会社が子会社に命令する」ような関係に近い面がありました。いまは、国と地方は対等な取引先どうしに近い関係に整理されています。国が口を出すときも、勝手にではなくルール(法律の根拠)にもとづいて、必要な範囲だけ、というわけです。関与に不満があれば、自治体が国地方係争処理委員会に審査を申し出るしくみも用意されています。

演習過去問チャレンジ(○×)

Q1.地方公共団体の長は議会の議員の中から選ばれ、住民が直接選挙で選ぶことはない。

正解は ×。地方では長も議員も住民が直接選挙で選びます(二元代表制)。議員の中から長が選ばれるのは国(議院内閣制)の話です。

Q2.特別区(東京23区)は、普通地方公共団体に分類される。

正解は ×。特別区は特別地方公共団体です。普通地方公共団体は都道府県と市町村。特別区・組合・財産区が特別地方公共団体です。

Q3.地方公共団体は、法律の範囲内で条例を制定することができ、条例には罰則を定めることもできる。

正解は 。条例は憲法94条のとおり法律の範囲内で制定でき、地方自治法の認める範囲で罰則を定めることもできます。

Q4.議会が長の不信任を議決した場合、長は一定の期間内であれば議会を解散することができる。

正解は 。不信任の議決に対し、長は議会を解散して対抗できます。解散しなければ長が失職し、解散後の議会が再び不信任を議決すれば長は失職します。

Q5.条例の制定・改廃を求める直接請求には、選挙権を有する住民の3分の1以上の署名が必要である。

正解は ×。条例の制定・改廃の請求は50分の1以上です。3分の1以上が必要なのは、議会の解散や解職(リコール)といった重い請求のほうです。

Q6.住民訴訟は、あらかじめ住民監査請求をしていなくても、直接裁判所に提起することができる。

正解は ×。住民訴訟は、先に住民監査請求をしておくことが必要です(監査請求前置)。いきなり訴訟は提起できません。

Q7.住民監査請求は、住民が1人であっても提起することができる。

正解は 。住民監査請求・住民訴訟は住民1人でもでき、署名集めは不要です。署名が必要なのは直接請求のほうです。

Q8.国が地方公共団体に関与する場合、法律の根拠がなくても、行政の判断で自由に関与することができる。

正解は ×。国の関与には法律(またはこれにもとづく政令)の根拠が必要で、必要最小限度でなければなりません。国と地方は対等・協力が基本です。

暗記一問一答
「地方自治の本旨」の2つの要素は?
A. 住民自治(住民の意思で決める)と団体自治(団体が独立して処理する)。
普通地方公共団体とは?
A. 都道府県市町村。特別区・組合・財産区は特別地方公共団体。
二元代表制とは?
A. (知事・市町村長)と議会の両方を、住民が直接選挙で選ぶしくみ。
不信任と解散の関係は?
A. 議会の不信任議決に対し、長は議会を解散して対抗できる。解散しなければ長が失職。
専決処分の2タイプは?
A. ①議会が開けない等の緊急的なもの(次の議会に報告・承認)、②議会があらかじめ委任した軽易な事項。
条例と規則は誰が作る?
A. 条例は議会、規則は。条例は法律の範囲内で制定する。
条例で罰則は定められる?
A. 定められる。地方自治法が認める範囲で懲役・罰金などを置ける。
直接請求の署名数の分かれ目は?
A. 条例制定改廃・事務監査=50分の1/議会解散・解職=原則3分の1
住民訴訟を起こす前に必要なことは?
A. 先に住民監査請求をしておくこと(監査請求前置)。
住民監査請求の対象は?
A. 公金支出・財産管理・契約など財務会計上の行為。住民1人でも提起できる。

📌 このページのまとめ

  • 地方自治の本旨=住民自治(住民が決める)+団体自治(団体が独立して処理)
  • 地方公共団体は普通(都道府県・市町村)特別(特別区・組合・財産区)の2種類
  • 長も議会も住民が直接選ぶ二元代表制。再議・不信任⇄解散・専決処分でチェックし合う
  • 条例は議会、規則はが制定。条例は法律の範囲内で、罰則も定めうる
  • 直接請求は4タイプ。条例制定・事務監査=50分の1/解散・解職=原則3分の1
  • お金の使い方を正すには住民監査請求 → 住民訴訟の順(監査請求前置)。住民1人でも可、対象は財務会計上の行為
  • 国の関与は法律の根拠必要最小限度が原則。国と地方は対等・協力