第4章 商法・会社法 入門〜基本 民法との対比

商法の基本

商人・商行為とは? ビジネスの世界の基本ルール。

📖 このページでわかること

  1. 商法は民法とどんな関係にあるのか(特別法・商慣習という適用の順番)
  2. 「商人」と「商行為」の種類と見分け方
  3. 商業登記の効力(公示力・不実登記の責任)
  4. 商号のルール(選定の自由・名板貸し・商号続用)と営業譲渡
  5. 支配人・代理商など、商人を助ける人たち
ここからは「商法・会社法」の章です。むずかしそうに聞こえますが、要は「商売(ビジネス)のための特別ルール」。お店を開くとついてくる決まりごと、とイメージしながら読んでいきましょう。商法は範囲が広いので、行政書士試験でよく出るところに絞って、でもしっかり厚く学んでいきます。

1. 商法は「商売のための特別ルール」

私たちの日常の取引は、ふだんは民法がルールになっています。ところが、お店どうしの取引のように毎日くり返される大量の商売では、民法だけでは少し不便なことがあります。スピードと安全を両立させる、商売むけの細かいルールが必要なのです。

そこで、商人や商取引について民法より優先して使われる特別なルールを定めたのが商法です。法律の世界では、こうした「特定の場面だけに使う特別なルール」を特別法と呼びます。

これだけ覚える:特別法は一般法に優先する

同じ取引について民法(一般法)と商法(特別法)の両方にルールがあるとき、まず商法が優先して使われます。商法に決まりがない部分だけ、民法に戻って考えます。

適用される順番(商事に関するルールの優先順位)

商売に関するできごと(商事)について、どのルールから使うかには順番があります。試験でも問われやすい大切なポイントです。

商法1条2項:商事に関し、商法に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは民法の定めるところによる。
順番使うルールイメージ
① 最優先商法(の規定)商売むけの専用ルール
商慣習(商慣習法)その業界で定着した不文のルール
③ 最後民法一般のルールに戻って判断
ひっかけ注意:商慣習は民法より「先」

「商法→民法→商慣習」の順だと思わせる出題があります。正しくは商法→商慣習→民法。商売の現場では、その業界の慣習が一般の民法より優先される、という発想です。

たとえ話:校則と部活のルール

学校全体に「校則」(民法)があり、その中の野球部だけに「部のルール」(商法)があるとします。野球部の活動ではまず部のルールに従い、部のルールにないことは「みんなが昔から守ってきた部内の慣習」(商慣習)で、それもなければ校則で判断します。商法・商慣習・民法の関係もこれと同じです。

2. 「商人」とはだれか

商法が使われるかどうかの入口が、登場人物が商人かどうかです。商人には2つのタイプがあります。

種類意味具体例
固有の商人自分の名前で商行為をすることを業とする者(くり返し商売をする人)仕入れて売る小売店・卸売業者
擬制(ぎせい)商人商行為をしていなくても、店舗を構えて物を売る者や鉱業を営む者は商人とみなされる自分で育てた野菜を店舗で売る農家 など
商法4条:「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者などは、商行為を行うことを業としない者であっても商人とみなされる。

「擬制商人」というのは、本来は商行為にあたらない仕事でも、商人と同じように扱うしくみです。お店を構えて売っている以上、まわりからは商人と区別がつかないので、取引の安全のため商人として扱うのです。

3. 「商行為」の3つのタイプ

商人が商売としてする取引が商行為です。商行為は性質の強さで3段階に分けられます。

種類意味
絶対的商行為だれが行っても、また1回きりでも当然に商行為になる安く買って高く売る目的の投機購買とその売却 など
営業的商行為営業として反復・継続して行うことで商行為になる賃貸し業・運送業・倉庫業・両替などの取引 など
附属的(ふぞくてき)商行為商人が営業のためにする行為開業資金の借入れ、店舗を借りる契約 など
たとえ話:商行為は「3段階の濃さ」

絶対的商行為は、1回でも・だれでも商売の色が濃い行為(転売目的の仕入れと売却)。営業的商行為は、くり返してこそ商売になる行為(運送やレンタル)。附属的商行為は、商売そのものではないけれど商売を支えるためにする行為(資金を借りる)。本業に近いほど色が濃い、とイメージしましょう。

具体例:商法が迅速・安全を重視する場面

商人どうしの取引(商行為によって生じた債務)では、お金の貸し借りに当然に利息がついたり、複数人で負った債務が原則として連帯になったりと、民法より相手を守る扱いがされることがあります。「プロ同士なのだから、スピーディーかつ確実に」という発想です。

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4. 商業登記 ── 取引相手に「中身」を見せるしくみ

商業登記とは、商号・会社の代表者・本店の場所などの重要な情報を登記簿に記録して公開する制度です。誰でも見ることができます。はじめて取引する相手が「ちゃんとした会社か」「代表者は誰か」を確認できれば、安心して取引できます。

登記の効力(公示力)

商業登記には、世間に情報を知らせる効力があります。これを登記すべき事項に関する効力といい、登記の前と後で扱いが分かれます。

商法9条1項(会社法908条1項も同趣旨):登記すべき事項は、登記の後でなければ善意の第三者に対抗できない(=消極的公示力)。登記の後は、正当な事由がなく知らなかった第三者にも対抗できる(=積極的公示力)。
場面効力意味
登記する前消極的公示力登記がないと、その事実を知らない(善意の)相手には主張できない
登記した後積極的公示力登記すれば、相手は「知らなかった」と原則言えなくなる
注意:登記したことは「知らなかった」では原則済まされない

登記された事項は、原則として「世間に公開された」ものとして扱われます。そのため取引相手は「登記を見ていないから知らなかった」とは原則言えません(積極的公示力)。ただし、地震や災害で登記簿が見られなかったなど正当な事由がある場合は例外的に保護されます。

うその登記をしたら ── 不実登記の責任

もし事実と違う内容(不実)を登記してしまうと、それを信じて取引した相手を裏切ることになります。

商法9条2項(会社法908条2項も同趣旨):故意・過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が事実でないことを善意の第三者に対抗できない(=うそでも、信じた相手にはうそと言えない)。
たとえ話:自分でついた嘘には責任を持つ

「私は店長です」と看板に書いておきながら、後で「あれは嘘でした」と言っても、それを信じて取引した相手には通りませんよね。自分でうそを公示した以上、その外見どおりの責任を負う——これが不実登記の責任です。

5. 商号 ── お店の「名前」のルール

商号とは、商人が商売をするときに使う名前のことです。お店の屋号や会社名をイメージしてください。

① 商号は自由に決められる(商号選定の自由)

原則として、商号は自由に選べます。自分の本名と違う名前を使ってもかまいません(商号選定の自由)。ただし完全に自由なわけではなく、次のような例外があります。

たとえ話:人気店ののれんを勝手に借りる

有名なラーメン店とそっくりな名前と看板でお店を開けば、お客さんは「あの人気店の系列だ」と勘違いしてしまいます。これはお客さんをだます行為。だから「名前は自由、でも他人をだます目的での使用はダメ」というルールがあるのです。

② 名板貸し(ないたがし)の責任

自分の商号を「使っていいよ」と他人に貸すことがあります。これを名板貸しといいます。名前を貸した人は、思わぬ責任を負うことがあります。

商法14条(会社法9条も同趣旨):自己の商号を使用して営業・事業を行うことを他人に許諾した者は、その商号を信じて取引した相手方に対し、その他人と連帯して弁済する責任を負う。
具体例:名前を貸した責任

Aさんが「私の店の名前を使っていいよ」とBさんに許可し、客のCさんが「Aの店だ」と信じてBと取引したとします。BがCに損害を与えたとき、名前を貸したAもCに対して責任を負うことがあります。外見を作り出した人は、その外見を信じた人に責任を持つ、という考え方です。

6. 営業譲渡と、商号を引き継いだとき

営業譲渡とは、お店を「営業」というひとまとまり(商品・お客さん・ノウハウなど)ごと他人に譲ることです。お店を丸ごと売り渡すイメージです。

このとき、譲った人(譲渡人)には一定の制限がつきます。せっかく営業を売ったのに、すぐ近所で同じ商売を始められたら、買った側(譲受人)が困るからです。

商法16条(会社法21条も同趣旨):営業を譲渡した者は、特約がなければ、同一・隣接の市町村の区域内で、原則20年間、同一の営業を行ってはならない(競業避止義務)。

商号を続けて使うと ── 譲受人の責任

営業を買った人が、前のお店の商号をそのまま使い続けた場合、お客さんからは「経営者が変わった」とは分かりません。そこで、譲受人も前の営業の借金を負うことがあります。

商法17条1項(会社法22条1項も同趣旨):営業を譲り受けた者が譲渡人の商号を引き続き使用する場合、その譲受人も、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
たとえ話:看板を変えなかったお店

お店の経営者が変わっても、看板(商号)がそのままなら、取引先は「いつものお店」と思い続けます。だから「看板を引き継いだ人は、前の経営の借金も引き継ぐ」と扱われるのです。逆に、看板を変えるか「前の借金は引き継がない」と公示・通知すれば、この責任を避けられます。

7. 商人を助ける人たち ── 支配人と代理商

商人は一人ですべてをこなせません。営業を手伝う人たち(商業使用人)や、外部の協力者(代理商)がいます。

支配人 ── お店をまるごと任された代理人

支配人とは、商人に代わってそのお店の営業をひととおり任された人のこと。いわゆる「店長」「支店長」のような立場です。支配人の大きな特徴は、その営業について包括的代理権を持つ点です。

商法21条1項:支配人は、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を有する(包括的代理権)。
注意:代理権に制限をかけても、知らない相手には通らない

「この支配人は◯◯までしか契約できない」と内部で制限しても、その制限は善意の第三者には対抗できません。取引相手からは支配人の権限の中身は見えないので、外から見える包括的代理権を信じた相手を守るのです。

代理商 ── 外部のパートナー

代理商とは、特定の商人のために継続して取引の代理や仲介をする、独立した商人です。会社の従業員(支配人)とは違い、自分も独立して商売をしている点がポイントです。

支配人代理商ふつうの店員
立場営業を任された使用人(従業員)独立した商人(外部のパートナー)個別の仕事を手伝う使用人
代理権の範囲営業全般に及ぶ(包括的)委託された取引の代理・仲介任された範囲だけ
イメージ店長・支店長専属の外部営業代理人レジ担当・販売スタッフ
たとえ話:留守を任された「店長」

主人が旅行で不在でも、店長がいればお店は回りますよね。仕入れも販売も店長の判断でできる。支配人は、この「主人がいなくても営業をまわせる店長」。だからこそ取引相手も「店長と話せばお店として決められる」と安心できるのです。代理商は、その店と契約した外部の営業のプロ、とイメージしましょう。

演習過去問チャレンジ(○×)

Q1.同じ取引について民法と商法の両方に規定があるとき、特別法である商法が民法に優先して適用される。

正解は 。商法は商人・商取引についての特別法であり、一般法である民法に優先します。

Q2.商事について商法に定めがないとき、商慣習よりも先に民法が適用される。

正解は ×。順番は商法→商慣習→民法。商法に定めがなければ、まず商慣習に従い、それもなければ民法によります。

Q3.店舗を構えて物品を販売する者は、商行為を業としていなくても商人とみなされることがある。

正解は 。これが擬制商人です。店舗で物を売る以上、外見上は商人と区別がつかないため、商人として扱われます。

Q4.登記すべき事項を登記すれば、原則として、その事実を知らなかった第三者にも対抗することができる。

正解は 。これが積極的公示力。登記後は、正当な事由なく知らなかった相手にも対抗できます。

Q5.自分の商号を使って営業することを他人に許した者は、その商号を信じて取引した相手に対し、その他人と連帯して責任を負うことがある。

正解は 。これが名板貸しの責任。外見を作った人は、それを信じた相手に責任を負います。

Q6.営業を譲り受けた者が譲渡人の商号を引き続き使用する場合、原則として、譲渡人の営業によって生じた債務についても弁済する責任を負う。

正解は 商号続用の譲受人の責任です。看板を引き継いだ以上、前の営業の借金も引き継ぐのが原則です。

Q7.支配人の代理権に内部で制限を加えた場合、その制限はすべての取引相手に対して当然に主張できる。

正解は ×。代理権への制限は善意の第三者に対抗できません。外から見える包括的代理権を信じた相手を保護します。

暗記一問一答
商事についてのルールの適用順は?
A. 商法 → 商慣習 → 民法の順。商慣習は民法より先。
固有の商人とは?
A. 自己の名をもって商行為をすることを業とする者。
擬制商人とは?
A. 商行為をしていなくても、店舗で物を売る者などを商人とみなすもの。
商行為の3分類は?
A. 絶対的商行為・営業的商行為・附属的商行為。本業に近いほど色が濃い。
消極的公示力とは?
A. 登記しない限り、その事実を善意の第三者に対抗できないこと。
積極的公示力とは?
A. 登記すれば、正当な事由なく知らなかった相手にも対抗できること。
不実登記をした者の責任は?
A. 故意・過失でうその登記をすると、その事実でないことを善意の第三者に対抗できない
名板貸しの責任とは?
A. 商号の使用を許した者が、信じた相手に連帯して弁済責任を負う。
商号続用の譲受人の責任とは?
A. 譲渡人の商号を続けて使う譲受人は、譲渡人の営業上の債務も負う。
支配人の代理権の特徴は?
A. 営業全般に及ぶ包括的代理権。制限は善意の第三者に対抗できない。

📌 このページのまとめ

  • 商法は特別法で民法に優先。適用順は商法→商慣習→民法
  • 商人は固有の商人擬制商人。商行為は絶対的・営業的・附属的の3種
  • 商業登記には消極的公示力・積極的公示力。うその登記は不実登記の責任
  • 商号は原則自由だが、不正目的の使用は禁止。名板貸しには連帯責任
  • 営業譲渡で商号を続用した譲受人は、原則前の営業の債務も負う
  • 支配人は営業全般の包括的代理権。代理商は独立した外部の商人