📖 このページでわかること
- 憲法が縛る相手は国民ではなく国であること(立憲主義)
- 人権とは何か、どんな種類に分かれるのか(自由権・社会権・参政権・受益権)
- 人権は「誰が」持つのか(法人・外国人・未成年者・天皇)
- 人権は私人どうしの間でも働くのか(私人間効力)
- 在監者・公務員など特別な関係での人権の扱い
- 人権の限界としての「公共の福祉」の考え方
1. 法律は「国民」を縛る。では憲法は?
ふだんの法律(刑法や道路交通法など)は、わたしたち国民を縛るルールです。「人を傷つけてはダメ」「赤信号で止まれ」。国がわたしたちに守らせるものですね。
ところが憲法だけは、向きが逆です。憲法が縛る相手は、国民ではなく——国(権力)そのものなのです。
憲法は、国の権力が暴走しないように、国を縛るためのルール。これを立憲主義といいます。憲法の主役は“国民を守ること”なのです。
2. なぜ「国」を縛る必要があるの?
歴史をふりかえると、国の権力はしばしば暴走しました。王様が気まぐれで人を捕まえたり、重い税を取り立てたり…。強すぎる力は、ほうっておくと人々を踏みつぶしてしまう。それを苦い経験から人類は学びました。
国は、みんなを守ってくれる頼もしい大きな番犬です。でも、しつけを忘れると飼い主にまで噛みついてしまう。だから「首輪とリード」をつけておく。その首輪こそが憲法。番犬(国)の力をコントロールして、暴走を防ぐのです。
立憲主義をささえる代表的な道具立ては、大きく2つあります。1つは、これから学ぶ人権の保障。もう1つは、権力を1か所に集めない権力分立(三権分立)です。後者は統治機構の回でくわしく扱いますが、「人権保障」と「権力分立」が立憲主義の両輪である、とおさえておきましょう。
近代の憲法は「国は余計なことをするな(国家からの自由)」を中心に作られました。しかし産業が発展し、貧富の差が広がると、「自由」だけでは弱い立場の人が守られないとわかってきます。そこで20世紀の憲法は「国よ、人間らしい暮らしを支えて(国家による自由)」という社会権を新たに加えました。日本国憲法も、自由権と社会権の両方を持つ現代型の憲法です。
3. 「人権」は生まれながらの宝物
では、憲法は国に何を守らせるのでしょう。それが人権(基本的人権)です。人権とは、人が人として生まれた瞬間から当然にもっている権利のこと。誰かにもらうものでも、許可がいるものでもありません。これを人権の固有性といいます。あわせて、人権は奪われない(不可侵性)、すべての人が持つ(普遍性)という性質があるとされます。
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
・思っていることを言う自由(表現の自由)
・好きな宗教を信じる/信じない自由(信教の自由)
・住む場所や職業を自分で選ぶ自由(経済的自由)
・人間らしく生きる権利(生存権)
どれも「あなたが生きていく上で当たり前に必要なもの」ばかりですね。
4. 人権はどんな種類に分かれるの?
人権とひとことで言っても、中身はさまざまです。試験では、まず大きな分類を地図のように頭に入れておくと、個々の権利が「どの仲間か」で整理できます。代表的な分け方が次の4つです。
自由権=国に邪魔されない権利(国家からの自由)。精神的自由・経済的自由・人身の自由に分かれる
社会権=人間らしく生きるため、国に支えてもらう権利(国家による自由)。生存権など
参政権=政治に参加する権利(選挙権・被選挙権など)
受益権(国務請求権)=国に何かを求める権利(裁判を受ける権利・請願権・国家賠償請求権など)
このほか、すべての人権の土台となる包括的基本権(幸福追求権)と、扱いをそろえる平等権があります。幸福追求権からは、条文に明記されていないプライバシー権などの「新しい人権」が読み取られると考えられています。
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
| 分類 | ひとことで | 代表例 |
|---|---|---|
| 自由権 | 国家からの自由 | 表現の自由・信教の自由・職業選択の自由 |
| 社会権 | 国家による自由 | 生存権・教育を受ける権利・労働基本権 |
| 参政権 | 国家への自由(参加) | 選挙権・被選挙権 |
| 受益権 | 国に求める | 裁判を受ける権利・請願権・国家賠償請求権 |
5. 人権は「誰が」持つの?(享有主体)
人権は「人」が持つ権利ですが、では会社(法人)や外国人、未成年者、天皇はどうなるのか。これは試験で問われやすい論点です。一つずつ見ていきましょう。
① 法人(会社など)
会社は生身の人間ではありませんが、現代社会で重要な活動をしています。そこで、権利の性質上、可能なかぎり法人にも人権の保障がおよぶと考えられています。たとえば財産権や、政治献金などを通じた表現活動が問題になります。ただし、選挙権のように生身の人間しか持ちえない権利は法人にはおよびません。
・およぶ例:財産権、営業の自由、表現活動
・およばない例:選挙権、生命・身体に関する権利
② 外国人
外国人にも、権利の性質上、日本国民だけを対象とすると考えられるものを除き、人権の保障がおよぶとされています。これは外国人の在留制度に関する有名な事件で裁判所が示した考え方です。
外国人にも人権は性質上可能なかぎり保障される、としつつ、その保障は外国人の在留制度のわく内で与えられるにすぎない、と裁判所は述べました。つまり、在留期間中に行った行為(政治活動など)を、在留の更新を認めるかどうかの判断で消極的な事情として考慮しても憲法に反しない、という考え方です。
外国人の権利は、性質ごとに次のように整理されます。試験ではこの“線引き”が問われます。
| 権利 | 外国人への保障 |
|---|---|
| 精神的自由(表現・信教など) | 原則およぶ |
| 入国の自由 | 保障されない(国際慣習上、国に裁量) |
| 参政権(国政選挙権) | 保障されない(国民固有の権利) |
| 社会権 | 性質上、国民が原則。立法で配慮は可能 |
「外国人にも人権が保障される=あらゆる権利が同じように保障される」ではありません。とくに国政の選挙権は、国民主権の建前から外国人には保障されない、というのが基本の考え方です。「およぶ/およばない」を権利ごとに分けて覚えましょう。
③ 未成年者
未成年者も当然に人権の主体です。ただし、心身がまだ発達の途中であることから、本人を保護するために、おとなより広く制約される場面があると考えられています(たとえば選挙権の年齢制限など)。
④ 天皇・皇族
天皇・皇族も日本国民であり人権の主体ですが、象徴という地位の特殊性から、選挙権・被選挙権や、職業選択・婚姻など一定の権利について特別の扱い(制約)があると説明されます。
6. 人権は私人どうしの間でも働く?(私人間効力)
憲法は「国を縛るルール」でした。では、会社が社員を、私立学校が生徒を扱うような“私人どうし”の関係にも、憲法の人権規定は直接あてはまるのでしょうか。これが私人間効力の問題です。
憲法の人権規定を、私人どうしの争いにそのまま直接あてはめるのではなく、民法90条(公序良俗)などの私法の一般条項を“読み込む”かたちで、間接的にいかす、という考え方です。これを間接適用説といいます。私的自治(当事者の自由な取り決め)を尊重しつつ、行きすぎた人権侵害には民法を通じてブレーキをかける、というバランスのとり方です。
企業が、応募者の思想・信条を理由に採用を断ることが許されるか、が争われた事件で、裁判所は企業にも経済活動の自由(採用の自由)があり、どのような者を雇うかは原則として企業の自由とし、憲法の規定を私人間に直接は適用しない、という立場(間接適用の考え方)を示しました。私人どうしでは、一方の人権だけでなく相手方の自由も同時に尊重される、という発想です。
憲法という審判は、選手どうし(私人どうし)のプレーに直接ホイッスルを吹くのではなく、「ルールブック(民法)」を通して反則かどうかを判断します。憲法の価値はルールブックの解釈にしっかり染み込んでいる——これが間接適用のイメージです。
7. 特別な法律関係での人権
国と特別な関係に立つ人(刑務所に収容されている人、公務員など)は、その関係の目的のために、一般の人より広く人権が制約される場面があるとされます。ただし、それも必要な限度でのみ許されるのがポイントです。
| 立場 | 制約される例 | 制約の理由 |
|---|---|---|
| 在監者(受刑者など) | 面会・通信、新聞・図書の閲読の一部制限 | 施設の規律・秩序の維持 |
| 公務員 | 政治的行為・労働基本権の一部制限 | 職務の中立・公正、行政の継続性 |
「特別な関係だから何でも制限してよい」わけではありません。あくまでその関係を維持するために必要な範囲に限られ、行きすぎた制約は許されません。「制限できる=丸ごと奪える」ではない点に注意です。
8. 人権の限界 ── 「公共の福祉」
「人権は大切」「自由は守られる」。とはいえ、何をしてもいい、というわけではありません。あなたの自由が、誰かの自由とぶつかることがあるからです。
電車の座席は、みんなが「自分の自由」に足を広げたら座れる人が減ってしまいます。だから少しずつゆずり合う。人権も同じで、みんなが共に暮らすために、必要な範囲でだけ調整される。この調整の考え方を「公共の福祉」といいます。
公共の福祉とは、人権どうしが衝突したときに、それを公平に調整するための原理と理解するのが基本です(人権相互の矛盾・衝突を調整する内在的制約)。国が外から押しつける都合ではなく、「人権を守るために人権を調整する」内側の論理だ、ととらえましょう。
「公共の福祉」は、国が好き勝手に人権を制限してよい魔法の言葉ではありません。あくまで人権どうしの衝突を調整するためのもの。だから「公共の福祉のため」と言えば何でも制限できる、という記述は誤りです。制限してよいかは、権利の重さに応じて慎重に判断されます(次回学ぶ二重の基準論につながります)。
9. 憲法を学ぶときのコツ
憲法は、民法のような細かいルールの暗記より、「この権利は何のためにあるのか」「国の制限は許されるのか」を考える科目です。判例(裁判所の判断)も、結論だけでなく「なぜそう考えたか」に注目すると、グッと得点が安定します。本章では、まずこの総論の地図(分類・主体・限界)を頭に入れ、次回からは個々の権利を一つずつ深めていきましょう。
Q1.憲法は、国民が守るべきルールを定めたものであり、主に国民の行動を縛るためにある。
正解は ×。憲法が縛る相手は、国民ではなく国(権力)です。国民の人権を守るために国を制限する——これが立憲主義の核心です。
Q2.人権はとても大切だが、他人の人権とぶつかる場面では、必要な範囲で調整されることがある。
正解は 〇。人権も無制限ではなく、人権どうしの衝突を調整する「公共の福祉」による制約を受けることがあります。
Q3.会社などの法人にも、権利の性質上可能なかぎり、人権の保障がおよぶと考えられている。
正解は 〇。法人にも性質上可能なかぎり人権が保障されます。ただし選挙権など生身の人間しか持てない権利はおよびません。
Q4.外国人には人権がいっさい保障されないため、日本に入国する自由も表現の自由も認められない。
正解は ×。外国人にも性質上可能なかぎり人権はおよびます(表現の自由など)。一方、入国の自由や国政の選挙権は性質上保障されない、と整理します。
Q5.憲法の人権規定を私人どうしの関係に活かすにあたっては、民法の一般条項を通じて間接的にいかす考え方(間接適用説)が通説とされる。
正解は 〇。私的自治を尊重しつつ、民法90条などを通じて間接的に憲法の価値をいかすのが間接適用説です。
Q6.「公共の福祉」を理由にすれば、国はどんな人権でも自由に制限することができる。
正解は ×。公共の福祉は人権どうしの衝突を調整する原理であり、国が好き勝手に制限してよい万能の理由ではありません。
Q7.刑務所に収容されている人や公務員は、特別な関係にあるため、人権をいっさい主張できない。
正解は ×。制約はその関係を維持するため必要な範囲に限られます。「いっさい主張できない」は誤りです。
Q8.幸福追求権(13条)からは、条文に明記されていないプライバシー権などの新しい人権が読み取られると考えられている。
正解は 〇。13条の幸福追求権は包括的な権利で、ここからプライバシー権などの新しい人権が導かれると説明されます。
立憲主義をひとことで?
立憲主義をささえる2つの柱は?
人権の3つの性質は?
人権の4分類は?
法人に人権はおよぶ?
外国人の人権の基本的な考え方(マクリーン事件)は?
外国人に保障されないとされる代表例は?
私人間効力の通説は?
三菱樹脂事件で示された考え方は?
公共の福祉の正体は?
📌 このページのまとめ
- ふつうの法律は国民を縛る。憲法は逆に「国」を縛る(立憲主義)
- 立憲主義の両輪は人権保障と権力分立
- 人権は自由権・社会権・参政権・受益権に分類され、土台に幸福追求権・平等権
- 人権の主体:法人=性質上可能なかぎり、外国人=在留制度のわく内(入国・国政選挙権は除く)
- 私人間効力は間接適用説(民法90条などを通じて間接的にいかす)
- 在監者・公務員は必要な範囲でのみ広く制約されうる
- 人権の限界=公共の福祉(人権どうしの衝突を調整する原理)
- 憲法は暗記より「何のための権利か」「なぜそう判断したか」を考える科目