第2章 憲法 基本 条文つき

経済的自由・社会権

働く自由・財産を持つ自由と、人間らしく生きる権利。

📖 このページでわかること

  1. 職業選択の自由(22条)と規制目的二分論(消極目的・積極目的)
  2. 居住・移転の自由、外国移住・国籍離脱の自由
  3. 財産権(29条)の保障と「正当な補償」
  4. 生存権(25条)のプログラム規定説と裁判所の考え方
  5. 教育を受ける権利(26条)・勤労の権利・労働基本権(28条)
前回の「表現の自由」は精神的自由でした。今回は、お金やしごとに関する経済的自由と、人間らしく生きるための社会権を学びます。「自由にやらせて」と「守ってほしい」、向きの違う2つの権利を見ていきましょう。判例の考え方も少していねいに扱いますよ。

1. 経済的自由って何だろう

経済的自由とは、お金や仕事に関わる活動を、国に邪魔されずに自由にできる権利です。憲法は大きく3つを定めています。

経済的自由の3つ

職業選択の自由(22条1項)=どんな仕事につくか自分で選べる自由(営業の自由を含む)
居住・移転の自由(22条1項)=住む場所を自由に決め、移動できる自由
財産権(29条)=自分の財産を持ち、使い、処分できる権利

憲法22条1項
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
たとえ話:お店を開く自由

あなたが「パン屋さんを開きたい」と思ったら、自分の意思で開けます。これが職業選択の自由。さらに「お店を続けて商売する」のが営業の自由。そして、そのお店や材料を自分のものとして持てるのが財産権です。経済的自由は、自分の暮らしを自分の手で組み立てるための権利なのです。

2. なぜ経済的自由は「制約されやすい」のか

ここが試験でとても大切なポイントです。前回学んだ精神的自由とくらべると、経済的自由のほうが、国による制約を広く受けるとされています(二重の基準論)。

精神的自由より広く制約される理由

経済活動を野放しにすると、みんなの安全や暮らしに害が出ることがあるからです。誰でも自由に医者を名乗れたら危険ですし、危ない物を自由に売られても困ります。だから国は、みんなの利益を守るために、経済的自由には踏み込んだルールを作れるのです。22条にはわざわざ「公共の福祉に反しない限り」と書かれている点も象徴的です。

3. 規制目的二分論 ── 22条の最重要論点

職業の自由を制限する法律が憲法に違反しないか。これを考えるとき、規制の“ねらい”を2つに分けて、審査の厳しさを変えるという考え方があります。これが規制目的二分論で、試験頻出です。

消極目的規制積極目的規制
ねらい国民の生命・健康・安全を守る(危険の防止)社会的・経済的な弱者の保護や調和的発展
有害な営業の禁止・資格制度中小事業者の保護を目的とする規制
審査の厳しさより厳しく審査
(より緩やかでない手段で目的を達せるかも検討)
ゆるやかに審査
(著しく不合理であることが明白な場合のみ違憲)
たとえ話:審査の“ものさし”を変える

同じ「規制」でも、危険を防ぐための規制は「もっと害の少ないやり方で足りないか」まで細かくチェックします。一方、弱い立場の人を守るための規制は、社会政策として国の判断を尊重し、「よほど不合理でなければOK」とゆるやかに見ます。ねらいによってものさしを取りかえる、というイメージです。

消極目的規制の考え方(薬事法距離制限の考え方)

薬局の開設に「他店から一定距離を離す」という距離制限を課す規制が争われた事件で、裁判所はこれを国民の生命・健康を守るための消極目的規制ととらえました。そのうえで、より緩やかな規制手段で目的を達せられないかを検討し、距離制限はその目的のために必要・合理的とはいえない、として違憲と判断しました。消極目的規制が厳しく審査される典型例です。

ひっかけ注意:二分論の使い分け

「消極=厳しく」「積極=ゆるやか」を取り違える出題が定番です。危険防止(消極)はきびしくチェック弱者保護・社会政策(積極)は国の判断を尊重してゆるやか。セットで覚えましょう。

4. 居住・移転の自由、外国移住・国籍離脱の自由

22条1項は居住・移転の自由も保障します。住む場所を選び、移動する自由です。経済的自由に分類されますが、人と交流し情報に触れる前提となる点で、精神的自由としての性格もあわせ持つと説明されることがあります。

さらに22条2項は、外国に移住する自由国籍を離脱する自由を保障しています。海外渡航の自由(外国へ一時的に旅行する自由)も、この外国移住の自由に含めて理解されることが多い論点です。

憲法22条2項
何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
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5. 財産権(29条)と「正当な補償」

財産権は29条1項で保障されます。もっとも、財産権の中身は法律で定められることとされ(29条2項)、公共のために制約されることもあります。たとえば、道路や空港を作るために土地が必要になる場合です。

憲法29条
1項 財産権は、これを侵してはならない。
2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
ここがポイント:タダ取りはできない

国が公共のために私有財産を使うとき(土地の収用など)は、「正当な補償」、つまりきちんとした埋め合わせ(お金など)が必要です(29条3項)。公共のためとはいえ、持ち主からタダで取り上げることはできない、という歯止めです。

財産権規制の考え方(森林法事件の考え方)

共有する森林について、持分の少ない共有者は分割を請求できないとする規制(共有林の分割制限)が争われた事件で、裁判所は、この規制は財産権を制限する立法目的との関係で合理性・必要性を欠くとして違憲と判断しました。財産権の内容は法律で定めうるものの、その制約には合理的な理由が必要であることを示した例です。

6. 社会権 ── 国に「守ってもらう」権利

ここまでの自由権が「国よ、邪魔しないで(国家からの自由)」だったのに対し、社会権は「国よ、助けて(国家による自由)」という権利です。経済が発展する中で、自由だけでは弱い立場の人が苦しくなったため、生まれた新しい人権です。

① 生存権(25条)

すべての人が人間らしく生きるための権利です。生活保護などの根拠になっています。

憲法25条1項
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
プログラム規定説

25条について、「これは国に努力の目標(プログラム)を示したものであって、国民が直接『お金をくれ』と裁判で請求できる具体的な権利までは定めていない」とする考え方をプログラム規定説といいます。何が「最低限度」かは、その時々の財政や社会の状況をふまえて、国(立法)が判断するもの、という立場です。

裁判所の考え方(朝日訴訟・堀木訴訟の考え方)

生活保護の基準が「健康で文化的な最低限度の生活」を満たすかが争われた朝日訴訟の考え方では、裁判所は、何が最低限度の生活かの判断は国(厚生大臣)の広い裁量にゆだねられるとし、その判断は著しく合理性を欠くなどの場合でなければ違法とはいえない、という枠組みを示しました。
また、障害福祉年金と児童扶養手当の併給を認めない仕組みが争われた堀木訴訟の考え方でも、社会保障の具体的な制度設計は立法府の広い裁量にゆだねられる、とされました。生存権は、具体的な実現を法律にゆだねる性格が強い、という方向性です。

たとえ話:目標と具体的な約束

「みんなが安心して暮らせる町にします」という方針(目標)と、「あなたに毎月◯円払います」という具体的な約束は違いますよね。プログラム規定説は、25条を前者の方針に近いものとして読む考え方です。だから、具体的にどう実現するかは法律にゆだねられます。

② 教育を受ける権利(26条)

すべての人が教育を受けられる権利です(26条1項)。あわせて、保護者が子どもに普通教育を受けさせる義務と、義務教育の無償(26条2項)も定められています。なお「無償」とは、一般に授業料を取らないことを意味すると理解されています。

③ 勤労の権利(27条)・労働基本権(28条)

27条は、働く意思のある人が働けるようにする勤労の権利を定め、あわせて勤労条件の基準を法律で定めること、児童酷使の禁止も規定します。さらに28条は、立場の弱い労働者を守るための労働基本権(労働三権)を保障しています。

具体例:労働三権(28条)

団結権=労働組合をつくる権利
団体交渉権=組合が会社と話し合う権利
団体行動権(争議権)=ストライキなどをする権利
ひとりでは弱い労働者が、力を合わせて会社と対等に向き合うための権利です。なお公務員については、職務の公共性などから、これらの一部が制限される場面があります。

7. 自由権と社会権をくらべてみる

向きの違う2つの権利を、表で整理しておきましょう。

自由権
(経済的自由など)
社会権
(生存権など)
国への態度邪魔しないで
国家からの自由
助けて
国家による自由
国の動き何もしない(介入しない)積極的に支える
代表例職業選択22条・財産権29条生存権25条・教育26条・労働基本権28条
演習過去問チャレンジ(○×)

Q1.経済的自由は、精神的自由よりも、公共の福祉による広い制約を受けるとされている。

正解は 。経済活動の放任はみんなの安全を害しうるため、経済的自由は精神的自由より広く制約されます(二重の基準論)。

Q2.規制目的二分論では、国民の生命・健康を守る消極目的規制のほうが、弱者保護の積極目的規制よりゆるやかに審査される。

正解は ×。逆です。消極目的(危険防止)はより厳しく積極目的(弱者保護・社会政策)はゆるやかに審査されます。

Q3.国は、公共のために必要であれば、補償なしに私有財産を用いることができる。

正解は ×。私有財産を公共のために用いるには「正当な補償」が必要です(29条3項)。タダで取り上げることはできません。

Q4.生存権について、25条は国の努力目標を示したものだとするプログラム規定説という考え方がある。

正解は プログラム規定説は、25条を国への目標(方針)を示したものと読み、具体的な実現は立法にゆだねられるとする考え方です。

Q5.何が「健康で文化的な最低限度の生活」かの判断は、国(行政・立法)の広い裁量にゆだねられるとされている。

正解は 。朝日訴訟・堀木訴訟の考え方では、最低限度の生活の判断や社会保障の制度設計は国の広い裁量にゆだねられるとされました。

Q6.22条2項は、外国に移住する自由と国籍を離脱する自由を保障している。

正解は 外国移住の自由・国籍離脱の自由は22条2項です。海外渡航の自由もここに含めて理解されます。

Q7.義務教育の無償とは、一般に授業料を徴収しないことを意味すると理解されている。

正解は 。26条2項の義務教育の無償は、一般に授業料を取らないことを指すと理解されています。

Q8.労働三権とは、団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)をいう。

正解は 団結権・団体交渉権・団体行動権の3つが労働三権(28条)です。

暗記一問一答
経済的自由の代表的な権利と条文は?
A. 職業選択の自由・居住移転の自由(22条)財産権(29条)
規制目的二分論の2つと審査の厳しさは?
A. 消極目的(危険防止)=厳しく積極目的(弱者保護)=ゆるやか
薬事法距離制限の考え方は?
A. 距離制限を消極目的規制ととらえ、より緩やかな手段で足りるとして違憲とした。
外国移住・国籍離脱の自由は何条?
A. 22条2項。海外渡航の自由もここに含めて理解される。
私有財産を公共のために用いる条件は?
A. 正当な補償が必要(29条3項)。補償なしのタダ取りは不可。
森林法事件で示された考え方は?
A. 共有林の分割制限は目的との関係で合理性・必要性を欠くとして違憲とした。
生存権は何条?プログラム規定説とは?
A. 25条。25条を国の努力目標(方針)を示したものと読む考え方。
朝日訴訟・堀木訴訟の方向性は?
A. 最低限度の生活の判断や社会保障の制度設計は国の広い裁量にゆだねられる。
教育を受ける権利は何条?無償の意味は?
A. 26条。義務教育の無償=一般に授業料を取らないこと。
労働三権(28条)の3つは?
A. 団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)

📌 このページのまとめ

  • 経済的自由は職業選択22条・居住移転22条・財産権29条
  • 経済的自由は精神的自由より広く制約されやすい(二重の基準論)
  • 規制目的二分論=消極目的(危険防止)は厳しく、積極目的(弱者保護)はゆるやかに審査
  • 薬事法距離制限=消極目的で違憲/森林法=合理性を欠き違憲、という考え方
  • 外国移住・国籍離脱の自由は22条2項
  • 私有財産を公共のために用いるには正当な補償(29条3項)が必要
  • 生存権25条はプログラム規定説、最低限度の判断は国の広い裁量
  • 社会権:生存権25条・教育26条・勤労27条・労働基本権28条