第5章 基礎法学 入門〜基本 土台になる概念

基礎法学

すべての法律に共通する“考え方の土台”を最初に。

📖 このページでわかること

  1. 法律のさまざまな「分類」(公法/私法・実体法/手続法など)
  2. 法のルールはどこから生まれるのか(法源=成文法・不文法)
  3. 法の効力の3原則(不遡及・後法優先・特別法優先)
  4. 条文を読み解く「法の解釈」(文理・類推・反対解釈など)
  5. 裁判のしくみ(三審制)と、まちがえやすい基本用語
基礎法学は、いわば「法律を読むための共通の文法」です。ここで出てくる言葉や考え方は、民法でも憲法でも、ずっと使い続けます。むずかしく感じても大丈夫。たとえ話で、ゆっくり土台を固めていきましょう。

1. 法律のいろいろな「分類」

世の中には数えきれないほどの法律があります。それらを性質ごとに仲間分けすると、ぐっと見通しがよくなります。代表的な分け方を、表で一気に押さえましょう。

分類AB
公法/私法公法=国・公共団体と国民の関係私法=国民どうしの関係公法:憲法・行政法・刑法/私法:民法・商法
実体法/手続法実体法=権利義務の中身手続法=権利を実現する手順実体法:民法・刑法/手続法:民事訴訟法・刑事訴訟法
一般法/特別法一般法=広く一般に適用特別法=特定の場面に限り適用一般法:民法/特別法:商法・借地借家法
強行法/任意法強行法=当事者の合意で変えられない任意法=当事者の合意で変えられる強行法:物権の種類など/任意法:契約の多くの規定
固有法/継受法固有法=その国で生まれ育った継受法=外国から受け入れた日本の近代法の多くは継受法の性格をもつ
たとえ話:審判とプレイヤー(公法と私法)

スポーツにたとえると、公法は「審判(国)とプレイヤー(国民)のルール」、私法は「プレイヤーどうしのルール」のようなもの。憲法・行政法・刑法は公法、民法・商法は私法の代表例です。

具体例:実体法と手続法

「お金を貸したら返してもらえる」という中身を決めるのが実体法(民法)。返してくれないとき「裁判を起こしてどう取り立てるか」という手順を決めるのが手続法(民事訴訟法)です。

注意:強行法か任意法かで「合意の効力」が変わる

任意法の場面では、当事者が話し合って法律と違う約束をすれば、その約束が優先します。しかし強行法の場面では、いくら合意しても法律のルールが優先し、反する約束は無効になります。どちらの性質かが結論を左右します。

2. 法のルールはどこから生まれる?(法源)

「裁判で使われる法のよりどころ」を法源といいます。大きく、文章になっている成文法と、文章になっていない不文法に分かれます。

種類中身
成文法
(文章あり)
憲法・法律・命令・条例・規則 など国会・行政・議会が文章の形で定めたルール
不文法
(文章なし)
慣習法・判例法・条理長年の慣習、裁判のつみ重ね、ものごとの筋道

成文法どうしにも強さの順番があります。憲法が最も強く、次に法律、その下に行政機関が定める命令、地方では条例・規則がきます。上位の法に反する下位の法は効力をもちません。

日本は成文法が中心の国です。ただし、文章になっていなくても、社会で定着した慣習法や、裁判所が示してきた判例法、ものごとの筋道である条理も、実際の判断に影響をあたえます。

具体例:判例の重み

最高裁判所が一度示した判断(判例)は、その後の同じような事件の判断のものさしになります。条文に書いていない細かい部分は、判例で固まっていることが少なくありません。これを判例法と呼びます。

3. 法の効力 ── 3つの大原則

複数のルールがぶつかったとき、どれを優先するか。基礎法学では、次の3つの原則を必ず押さえます。

原則意味
法の不遡及法律は原則として過去にさかのぼって適用しない(とくに不利な扱いを過去に及ぼさない)
後法は前法を破る同じ種類の法どうしでは、あとからできた法が優先する
特別法は一般法に優先する同じ事項に両方が当てはまるとき、特別法が優先する
注意:不遡及がとくに大切なのは刑罰

とくに刑罰の世界では、「行為のときに犯罪でなかったことを、あとから作った法律で罰してはならない」という原則が憲法上のルール(事後法の禁止)になっています。あとから不利なルールを作って過去をさばくことは許されません。

たとえ話:校則とクラスのルール(特別法優先)

学校全体の校則(一般法)があっても、自分のクラスだけの当番ルール(特別法)があれば、そのクラスではクラスのルールが優先します。「より具体的・限定的なルールが勝つ」とイメージすると覚えやすいです。

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4. 法の解釈 ── 条文をどう読み解くか

条文は短い言葉で書かれているので、具体的な場面にあてはめるには「読み方」が必要です。これが法の解釈です。大きく文理解釈論理解釈に分かれます。

解釈意味イメージ例
文理解釈条文の言葉どおりに読む「車」と書いてあれば、ふつうの車を指すと読む
拡張解釈言葉の意味を少し広げて読む「車」に、似た性質の乗り物も含めて読む
縮小解釈言葉の意味を少しせばめて読む「車」を、特定の種類だけに限って読む
類推解釈明文のない事柄に、似た規定を当てはめる規定のないBにも、似たAの規定を及ぼす
反対解釈規定のない事柄は、規定と反対に扱う「Aには◯◯」とあれば「A以外には及ばない」と読む
勿論(もちろん)解釈「当然そうだろう」と当てはめる「犬を連れ込み禁止」なら「ライオンはもちろん禁止」
注意:刑罰の世界では類推解釈は原則禁止

刑罰については、明文のない行為に似た規定を当てはめて処罰する類推解釈は原則として許されません(罪刑法定主義の表れ)。書いていないことで人を罰してはいけない、という発想です。なお、言葉の枠内で意味を広げる拡張解釈は許される場合があります。

たとえ話:反対解釈と勿論解釈

「自転車は通行可」と書いた看板。ここから「では車はダメだ」と読むのが反対解釈。一方、「重い荷物を持ち込み禁止」とあれば「もっと重い金庫はもちろんダメ」と読むのが勿論解釈です。

5. 裁判のしくみ ── 三審制と審級

日本では、1つの事件について原則3回まで裁判を受けられます。これを三審制といいます。慎重に判断し、まちがいを正すためのしくみです。

このように、下級から上級へと裁判所の段階が決まっていることを審級といいます。第一審・控訴審・上告審と段階を上がっていくイメージです。

たとえ話:テストの見直しを3回まで

1回の採点で終わらせず、納得いかなければ別の(上級の)先生にもう一度見てもらえる——三審制はそんなイメージです。複数の目で確かめることで、判断の公正さを高めているのです。

6. まちがえやすい基本用語

法律の文章では、ふだんの日本語とは少しちがう意味で使われる言葉があります。試験でも問われやすいので、ペアで整理しておきましょう。

用語意味セット・対比
善意/悪意善意=ある事情を知らない
(良い人という意味ではない)
悪意=事情を知っている
推定するとりあえずそう扱うが、反対の証拠があればくつがえる反証で扱いを変えられる
みなす反対の証拠があってもくつがえらない反証では変えられない(推定より強い)
無効/取消し無効=はじめから効力がない取消し=いったん有効だが、取り消すとはじめにさかのぼって無効になる
対抗する自分の権利を第三者に主張できること「対抗できない」=第三者には主張できない
第三者当事者以外の人取引の外側にいる人
「推定する」と「みなす」のちがいがカギ

推定する=あとで反対の証拠が出ればひっくり返せる
みなす=反対の証拠が出てもひっくり返せない
「みなす」のほうが強い、と覚えておきましょう。

期間の計算(初日不算入の原則)

「いつから数えるか」も法律ではルールが決まっています。日・週・月・年で期間を定めたときは、原則として初日(最初の日)は数えに入れず、翌日から数えはじめます。これを初日不算入の原則といいます。

具体例:初日不算入

たとえば「ある日から10日間」というとき、その日(初日)は数えず、翌日を1日目として数えるのが原則です。ただし、その日の午前0時から始まる場合など、例外的に初日から数えることもあります。

演習過去問チャレンジ(○×)

Q1.同一の事項について一般法と特別法の両方が定めているとき、特別法が一般法に優先して適用される。

正解は 。より具体的・限定的なルールである特別法が優先します。

Q2.法律でいう「善意」とは、相手のためを思う良い心がけのことをいう。

正解は ×。法律の「善意」は「ある事情を知らない」こと。「悪意」は知っていることです。

Q3.「みなす」と規定された場合は、反対の証拠を示せばその扱いをくつがえすことができる。

正解は ×。反証でくつがえせるのは「推定する」のほう。「みなす」は反対の証拠があってもくつがえりません

Q4.刑罰については、明文のない行為に似た規定をあてはめて処罰する類推解釈は、原則として許されない。

正解は 。罪刑法定主義の表れとして、刑罰における類推解釈は原則禁止です。

Q5.成文法どうしでは、憲法が法律より上位の効力をもつ。

正解は 。効力の順は憲法→法律→命令の順。上位の法に反する下位の法は効力をもちません。

Q6.取消しがされた行為は、取り消した時点から先に向かってのみ効力を失う。

正解は ×。取消しは原則はじめにさかのぼって(初めから)無効になります。先に向かってのみ効力を失うのではありません。

Q7.日や週で期間を定めたときは、原則として初日を算入せず、翌日から起算する。

正解は 。これが初日不算入の原則です(午前0時から始まる場合などの例外あり)。

暗記一問一答
公法と私法のちがいは?
A. 公法=国・公共団体と国民の関係(憲法・行政法など)/私法=国民どうし(民法など)。
実体法と手続法のちがいは?
A. 実体法=権利義務の中身(民法)/手続法=実現の手順(民事訴訟法)。
強行法と任意法のちがいは?
A. 強行法=合意で変えられない/任意法=合意で変えられる
不文法の代表例は?
A. 慣習法・判例法・条理。文章の形になっていない法源。
法の効力の3原則は?
A. 法の不遡及・後法優先・特別法優先
類推解釈と反対解釈のちがいは?
A. 類推=似た規定をあてはめる/反対=規定の反対に扱う。刑罰の類推は原則禁止。
三審制と審級とは?
A. 原則3回裁判を受けられる(控訴・上告)。裁判所の段階が審級
「推定する」と「みなす」のちがいは?
A. 推定=反証でくつがえる/みなす=反証でもくつがえらない
無効と取消しのちがいは?
A. 無効=はじめから無効/取消し=取り消すとはじめにさかのぼって無効
初日不算入の原則とは?
A. 期間計算で初日は数えず翌日から起算する(例外あり)。

📌 このページのまとめ

  • 法の分類は公法/私法・実体法/手続法・一般法/特別法・強行法/任意法・固有法/継受法
  • 法源は成文法(憲法→法律→命令→条例)不文法(慣習法・判例法・条理)
  • 効力の3原則=不遡及・後法優先・特別法優先
  • 解釈は文理・拡張・縮小・類推・反対・勿論。刑罰の類推は原則禁止
  • 裁判は三審制(控訴・上告)。段階を審級という
  • 用語=善意/悪意・推定/みなす・無効/取消し・対抗、期間は初日不算入