第4章 商法・会社法 入門〜基本 権利と機関

株式と機関

株主の権利と、会社を動かす“機関”の役割分担。

📖 このページでわかること

  1. 株主の権利(自益権・共益権)と株主平等の原則
  2. 種類株式・譲渡制限・自己株式など、株式の応用ルール
  3. 株主総会の決議要件(普通・特別・特殊)
  4. 取締役・取締役会・代表取締役、監査役などの役割と責任
  5. 機関設計のルールと、役員等の責任・株主代表訴訟
前回は会社のしくみを見ました。今回は「株主にはどんな権利があるか」と、「会社を動かす役割分担(機関)」です。決議要件や役員の責任は数字や用語が多いので、表で整理しながらていねいに固めていきましょう。

1. 株式と、株主平等の原則

株式とは、株式会社における出資者としての地位(持ち分)を、細かく区切ったものです。この株式を持っている人が株主です。

株式会社では、株主はその持つ株式の数や内容に応じて、平等に扱われます。これを株主平等の原則といいます。

会社法109条1項:株式会社は、株主を、その有する株式の内容および数に応じて、平等に取り扱わなければならない

株主の権利は2種類

株主の権利は、自益権共益権に分かれます。「自分の利益のための権利」か「会社の運営に関わる権利」かで区別します。

種類意味代表例
自益権株主が自分の利益を受け取る権利剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利
共益権株主が会社の運営に参加する権利株主総会の議決権、株主提案権、帳簿の閲覧請求権
たとえ話:会員制のお店の「会員カード」

会員になると、①割引やポイントという“自分の得”がもらえ、②「運営アンケートに投票できる」という“運営への参加”もできるとします。①が自益権、②が共益権。株主の権利も、この2つの方向に分かれています。

2. 株式の応用ルール

種類株式

会社は、権利の内容が異なる複数の種類の株式(種類株式)を発行できます。たとえば配当を優先的に受けられる株式や、議決権のない株式などです。資金は出したいが経営には口を出さない、という人にも合わせられます。

譲渡制限株式

株式は本来、自由に売り買いできるのが原則(株式譲渡自由の原則)です。しかし会社は、株式の譲渡に会社の承認が必要という制限をつけることもできます。これが譲渡制限株式です。

具体例:知らない人に株が渡らないように

家族経営の会社が、知らない第三者に株を買われて経営に入ってこられたら困りますよね。そこで「株を売るには会社の承認が必要」とすることで、好ましくない人が株主になるのを防ぐのが譲渡制限です。すべての株式に譲渡制限がある会社を非公開会社といいます。

自己株式

会社が自分の発行した株式を買い戻して持つことを自己株式といいます。一定の手続き(財源規制など)のもとで認められます。

注意:自己株式に議決権はない

会社が持つ自己株式には、議決権がありません。会社が自分自身の総会で投票できてしまうと、経営者の都合のよい結論を作れてしまうからです。配当も自己株式には行われません。

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3. 株主総会 ── 会社の最高意思決定機関

株主総会は、株主が集まって会社の重要事項を決める最高意思決定機関です。議決権は原則1株につき1票(一株一議決権)。頭数ではなく株式数で投票力が決まります。

決議の種類(要件)

株主総会の決議は、決める内容の重さによって必要な賛成のハードルが変わります。試験で非常に重要なところです。

決議要件(原則)主な対象
普通決議議決権の過半数をもつ株主が出席し、出席株主の議決権の過半数の賛成役員の選任・解任、計算書類の承認 など
特別決議議決権の過半数をもつ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成定款変更、合併・事業譲渡、募集株式の有利発行、監査役の解任 など
特殊決議普通・特別よりさらに厳しい多数(人数・議決権の特別な要件)全株式への譲渡制限を新たに設ける定款変更 など
これだけ覚える:重い決定ほど高いハードル

ふだんの決定は過半数(普通決議)、定款変更や合併など会社の根本に関わる決定は3分の2以上(特別決議)。さらに株主に大きな影響を与える決定は特殊決議で、より高い賛成が必要です。

ひっかけ注意:取締役の解任は「普通決議」

取締役の選任も解任も原則は普通決議です(過半数)。一方、監査役の解任は特別決議が必要。「監査役はチェック役なので、簡単にクビにできない」と覚えると区別しやすいです。

4. 取締役・取締役会・代表取締役

会社を実際に経営するのが取締役です。取締役は株主総会の普通決議で選ばれ、解任も原則普通決議です。

取締役が複数集まって経営の重要事項を決める会議が取締役会。そして、対外的に会社を代表して契約などを行うのが代表取締役です。

機関役割国でいうと
株主総会最高意思決定機関。重要事項を決める国会
取締役(会)経営の意思決定・業務執行内閣・閣議
代表取締役対外的に会社を代表して行為する内閣総理大臣
監査役取締役の職務をチェックする(監査)監査・チェック役

取締役の義務 ── 競業避止と利益相反

取締役は会社のために働く立場なので、会社と利益がぶつかる行為には制限があります。代表が競業避止義務利益相反取引の規制です。

規制内容
競業避止義務取締役が会社と同じ事業の取引を自分や第三者のためにするには、会社(取締役会または株主総会)の承認が必要
利益相反取引取締役が会社と取引したり、会社に取締役の借金を保証させたりするには、会社の承認が必要
たとえ話:会社のお金を扱う人の「自分との取引」

会社のために働く人が、会社を相手に自分の都合のいい取引をすれば、会社が損をしかねません。「会社のレジを預かる人が、自分にこっそり安く売る」ようなもの。だから、こうした取引は事前に会社のチェック(承認)を受けなさい、というルールになっているのです。

5. 監査役・会計参与・会計監査人

経営を監視・補助する機関もあります。役割をきちんと区別しておきましょう。

機関役割
監査役取締役の職務執行を監査する(業務監査・会計監査)。簡単にはクビにできない(解任は特別決議)
会計参与取締役と共同して計算書類を作成する。税理士・公認会計士などがなる
会計監査人計算書類を外部の専門家として監査する。公認会計士・監査法人のみがなれる
ひっかけ注意:会計監査人になれるのは専門家だけ

会計監査人は公認会計士または監査法人でなければなりません。一方、会計参与には税理士・税理士法人もなれます。「だれがなれるか」は出題されやすいので区別しましょう。

6. 機関設計のルール

すべての株式会社が同じ機関をそろえる必要はありません。会社の規模や公開・非公開に応じて、必要な機関の組み合わせ(機関設計)を選べます。ただし、まったくの自由ではなく、いくつかの最低限のルールがあります。

機関設計の基本ルール

① すべての株式会社に株主総会取締役は必ず置く。
取締役会を置く会社は、原則として監査役(または監査等委員会など)を置く必要がある。
公開会社(株式の譲渡制限がない会社)は、原則取締役会の設置が必要。
「大きく開かれた会社ほど、見張る目を増やす」とイメージしましょう。

具体例:規模で変わる体制

小さな非公開会社……株主総会+取締役1人でもOK。シンプルに運営。
大きな公開会社……取締役会・監査役(会)・会計監査人などを置き、権限の分散とチェックを効かせます。

7. 役員等の責任と株主代表訴訟

取締役などの役員等が、その任務を怠って(任務懈怠=にんむけたい)会社に損害を与えた場合、その損害を会社に対して賠償する責任を負います。

会社法423条1項:取締役・監査役などの役員等は、その任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

株主代表訴訟

本来、会社の損害を取締役に請求するのは会社自身(の役割)ですが、仲間内でかばい合って請求しないこともあります。そこで、株主が会社に代わって、取締役などの責任を追及する訴訟を起こせます。これが株主代表訴訟です。

たとえ話:身内が見逃すなら、出資者が代わって追及する

取締役どうしが「お互いさま」と責任を見逃せば、損をするのは会社、ひいては株主です。そこで、まず会社に「請求してください」と求め、それでも会社が動かないとき、株主自身が会社のために裁判を起こせるのが株主代表訴訟。経営者の暴走を株主がチェックするしくみです。

演習過去問チャレンジ(○×)

Q1.剰余金の配当を受ける権利は自益権、株主総会の議決権は共益権に分類される。

正解は 。配当などは自益権、議決権などは共益権です。

Q2.会社が保有する自己株式についても、株主総会で議決権を行使することができる。

正解は ×自己株式に議決権はありません。会社が自分の総会で投票できると、結論を操作できてしまうからです。

Q3.定款を変更するには、株主総会の特別決議が必要である。

正解は 。定款変更は会社の根本に関わるため特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上)が必要です。

Q4.取締役を解任するには、原則として株主総会の特別決議が必要である。

正解は ×。取締役の選任・解任は原則普通決議です。特別決議が必要なのは監査役の解任のほうです。

Q5.取締役が会社と同種の事業の取引を自分のために行うには、原則として会社の承認が必要である。

正解は 。これが競業避止義務。会社と利益がぶつかる取引には会社の承認が必要です。

Q6.会計監査人には、税理士や行政書士もなることができる。

正解は ×。会計監査人になれるのは公認会計士または監査法人だけです。税理士がなれるのは会計参与です。

Q7.取締役が任務を怠って会社に損害を与えた場合に、株主が会社に代わってその責任を追及する訴訟を株主代表訴訟という。

正解は 。会社が責任追及を怠るとき、株主が会社のために訴訟を起こせるのが株主代表訴訟です。

暗記一問一答
株主平等の原則とは?
A. 株主を、その株式の内容と数に応じて平等に取り扱うこと。
自益権と共益権の例は?
A. 自益権=配当・残余財産分配、共益権=議決権・閲覧請求など。
譲渡制限株式とは?
A. 譲渡に会社の承認が必要な株式。全株式に制限がある会社が非公開会社。
自己株式の議決権は?
A. 議決権なし。配当も行われない。
普通決議と特別決議の要件は?
A. 普通=出席株主の議決権の過半数、特別=3分の2以上
取締役の選任・解任の決議は?
A. 原則普通決議。一方、監査役の解任は特別決議
競業避止義務・利益相反取引とは?
A. 取締役が会社と利益がぶつかる取引をするには会社の承認が必要。
会計監査人になれるのは?
A. 公認会計士・監査法人のみ。会計参与は税理士などもなれる。
機関設計の最低ライン
A. すべての会社に株主総会と取締役。公開会社は原則取締役会が必要。
株主代表訴訟とは?
A. 株主が会社に代わって、役員等の責任を追及する訴訟。

📌 このページのまとめ

  • 株主は株式の内容・数に応じて平等。権利は自益権・共益権
  • 種類株式・譲渡制限・自己株式(議決権なし)を押さえる
  • 決議は普通=過半数/特別=3分の2以上/特殊。取締役解任は普通、監査役解任は特別
  • 取締役には競業避止義務・利益相反取引の規制がある
  • 会計監査人は公認会計士・監査法人のみ。会計参与・監査役と区別
  • 役員等は任務懈怠責任を負い、株主は株主代表訴訟で追及できる