第1章 民法 入門〜基本 頻出・条文つき

意思表示

だまされた・おどされた・勘違いした契約はどうなる? 5つのパターンを表で整理します。

📖 このページでわかること

  1. 契約は「意思表示」でできているということ
  2. 意思表示に問題がある5パターン(心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫)の効果
  3. 各類型の第三者保護の要件(善意で足りるか/善意・無過失が必要か)
  4. 94条2項の善意第三者とその類推適用、動機の錯誤、第三者による詐欺
  5. 取消し前の第三者と取消し後の第三者(登記・177条との関係)
前回の「制限行為能力者」はに問題があるケースでした。今回は、契約のもとになる「気持ちの伝え方(意思表示)」に問題があるケースを見ていきます。ここは“第三者が守られるかどうか”が合否を分けますから、要件をていねいに押さえていきましょう。

1. 契約は「意思表示」でできている

契約は「買います」「売ります」という意思表示が合わさって成立します。ふつうは、心の中の思い(内心の効果意思)と、口に出した言葉(表示)が一致しています。

ところが、その2つが食い違ったり他人のせいでゆがめられたりすることがあります。そんなとき、契約をそのまま有効にしてよいのか?——というのが今回のテーマです。問題は大きく2系統に分けて考えると整理できます。

系統中身属する類型
意思の欠けつ
(意思の不存在)
表示に対応する内心の意思がそもそもない心裡留保・虚偽表示・錯誤
瑕疵ある意思表示意思はあるが、他人の干渉でゆがめられた詐欺・強迫
たとえ話:手紙の「書き間違い」と「脅し」

友だちに手紙を書くとき、①うっかり違うことを書いてしまった、②冗談で書いた、③誰かに「こう書け」とおどされて書いた——では、意味がまったく違いますよね。意思表示も同じで、「なぜ食い違ったのか」によって、契約の扱いが変わるのです。

2. 問題のある意思表示・5パターン

意思表示に問題があるケースは、大きく5つ。まず1つずつ、効果と第三者保護の要件をセットで押さえましょう。

① 心裡留保(しんりりゅうほ)── 93条

本心ではないのに、わざとうその意思表示をすること。かんたんに言えば「冗談・口だけ」です。

民法93条1項:意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときでも、原則として有効。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、または知ることができた(悪意・有過失)ときは、その意思表示は無効
93条2項:この無効は、善意の第三者に対抗できない。
具体例

売る気もないのに「この時計、君にタダであげるよ」と冗談で言った。
→ 原則は有効(言った人が悪いので、責任を取らせる)。ただし、相手も「冗談だ」と気づいていた/気づけたはずなら無効になります。さらに、その無効は善意の第三者には主張できません(93条2項)。

② 虚偽表示(きょぎひょうじ)── 94条

相手とグルになって、うその契約をしたように見せかけること(通謀虚偽表示)。

民法94条1項:相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効
94条2項:その無効は、善意の第三者に対抗できない。
具体例

借金の差押えを逃れるため、友人と相談して「土地を友人に売ったことにする」ニセの売買契約をした。
→ 当事者間では無効。ただし、その土地を本当に買ってしまった善意の第三者には「無効だ」と言えません(94条2項)。ここでは善意で足り、無過失までは不要とするのが判例です。

③ 錯誤(さくご)── 95条

勘違いのこと。重要な点について思い違いをして契約してしまった場合です。錯誤は2つの型に分かれます。

民法95条1項:意思表示は、次の錯誤が法律行為の目的・取引上の社会通念に照らして重要なときは、取り消すことができる。①意思表示に対応する意思を欠く錯誤(表示の錯誤)、②表意者が法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する錯誤(動機の錯誤)。
95条2項:動機の錯誤による取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
95条3項:表意者に重過失があるときは、原則として取り消せない。
具体例

「この土地の近くに駅ができる」と思い込んで(動機)土地を買ったが、実は計画はなかった。
→ これは動機の錯誤。取り消せるのは、その動機(駅ができること)が相手方に表示され、契約の基礎とされていた場合に限られます(95条2項)。ただ心の中で期待していただけでは取り消せません。

④ 詐欺(さぎ)── 96条

だまされてした意思表示。

民法96条1項:詐欺・強迫による意思表示は取り消すことができる
96条2項第三者が詐欺を行った場合、相手方がその事実を知り、または知ることができた(悪意・有過失)ときに限り、取り消せる。
96条3項:詐欺による取消しは、善意・無過失の第三者に対抗できない。
具体例

「この絵は有名画家の本物です」とウソをつかれて、ニセモノを高額で買った。
取り消せます。ただし、事情を知らない善意・無過失の第三者には取消しを主張できません(96条3項)。

⑤ 強迫(きょうはく)── 96条

おどされてした意思表示。

具体例

「サインしないと痛い目にあうぞ」とおどされて契約書にサインした。
取り消せます。しかも詐欺と違い、善意・無過失の第三者にも取消しを主張できます。強迫には第三者保護規定(96条3項)がないからです。強迫された人は手厚く守られます。

「だまされた」より「おどされた」が手厚く守られる

詐欺は「うっかりだまされた本人にも少し落ち度がある」と考え、第三者保護があります。一方、強迫は「本人に落ち度はない」と考え、第三者にも対抗できます。強迫=最強の保護と覚えましょう。さらに、第三者による行為でも違いが出ます。第三者が詐欺をしたときは相手方が悪意・有過失でないと取り消せない(96条2項)のに対し、第三者が強迫をしたときは相手方の善意悪意を問わず取り消せます

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3. 【最重要】5パターン比較表

この表が、意思表示のすべてです。「無効か取消しか」「第三者が守られる要件は何か」の2点で整理します。第三者保護の要件のレベル(善意で足りるか/無過失まで要るか)を取り違えると失点するので、ここを正確に。

パターンどんな状況効果第三者保護の要件
① 心裡留保
93条
冗談・口だけ原則有効
相手が悪意・有過失なら無効
善意
無過失は不要(93条2項)
② 虚偽表示
94条
相手とグルで仮装無効善意
無過失は不要(94条2項)
③ 錯誤
95条
重要な勘違い取消し善意・無過失
(95条4項)
④ 詐欺
96条
だまされた取消し善意・無過失
(96条3項)
⑤ 強迫
96条
おどされた取消し守られない
本人が勝つ

★最重要の対比:心裡留保・虚偽表示は「善意」で足りる/錯誤・詐欺は「善意+無過失」が必要/強迫は第三者保護なし。この3段階を正確に。「虚偽表示の第三者は善意・無過失でなければ守られない」という肢は誤りです。

4. 「第三者」と「善意」の意味を正確に

くり返し出てくる「善意の第三者」。法律で「善意」とは“良い人”ではなく、「その事情を知らない」という意味です(逆に「悪意」=知っている)。そして「第三者」にも定義があります。

94条2項の「第三者」とは

判例によれば、94条2項の第三者とは虚偽表示の当事者・その包括承継人以外の者で、その表示を前提に新たに独立の法律上の利害関係をもった者をいいます。たとえば仮装譲受人からさらに買った人や、その人から抵当権の設定を受けた人などです。単に債権者という立場だけの者は含まれないことがあります。

たとえ話:知らずに買った人

AさんとBさんがニセの売買(虚偽表示)をした後、その土地を「本物の取引だ」と信じてCさんが買った。Cさんは事情を知らない=善意の第三者。何も知らずに巻き込まれたCさんを守るため、Aさんは「あれはニセだから無効」とCさんには言えないのです。

ひっかけ注意:第三者は登記を備えていなくてもよい

判例は、94条2項で保護される善意の第三者は、原則として登記を備えている必要はないと判断しています。「対抗要件としての登記がなければ第三者は保護されない」という肢には注意してください(取消し“後”の第三者の話=後述の177条とは場面が違います)。

5. 94条2項の「類推適用」──頻出の応用

94条2項は、本来は「通謀(グル)」があった場合の規定です。ところが判例は、通謀がなくても、本人がウソの外観を作り出したり放置したりして、第三者がそれを信じた場合に、94条2項を類推適用して善意の第三者を守ることを認めています。

類推適用が認められる考え方

判例は、真実と異なる外観があり、その外観を本人が自ら作り出した(または承認・放置した)ときは、その外観を信じた善意の第三者を保護するという考え方をとっています。本人が外観作出に関与している以上、それを信じた人を守るべきだ、という「権利外観法理」の表れです。
たとえば、自分名義のままにしておくべき不動産を、他人名義に登記しておいて放置した結果、その他人から買い受けた善意の第三者が現れた、というような場面で問題になります。

6. 取消し前の第三者と取消し後の第三者(登記の要否)

詐欺・錯誤で取り消せる契約に第三者が登場するとき、その第三者が「取消しの前」に現れたか「取消しの後」に現れたかで、適用ルールが変わります。ここは差がつく超頻出論点です。

取消しの第三者取消しの第三者
場面取り消す前にすでに第三者が登場取り消した後に第三者が登場
使うルール96条3項(詐欺)/ 95条4項(錯誤)の第三者保護規定対抗問題(177条)として処理
第三者が守られる条件善意・無過失であること
(登記は不要)
取消しによる復帰的物権変動と二重譲渡類似と捉え、登記を先に備えた方が勝つ
具体例で整理

AがBにだまされて土地を売った。
取消し前:取り消す前にBが善意・無過失のCに転売 → Cは96条3項で保護され、Aは取り消してもCに勝てない。
取消し後:Aが取り消した後にBがCに転売 → 「Aへ戻る物権変動」と「Bから出ていく物権変動」がぶつかる二重譲渡類似の関係。AとCのうち先に登記を備えた方が勝つ(177条)。判例はこのように処理しています。

ひっかけ注意

「取消し後の第三者は、善意・無過失であれば常に保護される」という肢は誤りになり得ます。取消しは第三者保護規定ではなく登記の先後(177条)で決まるからです。前と後で土俵が変わる、と覚えてください。

7. フローで整理

意思表示に問題 無効グループ 心裡留保(例外) 虚偽表示 取消しグループ 錯誤・詐欺 強迫 原則有効 心裡留保(原則)
「無効」と「取消し」のどちらになるか、まず大きく分ける
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演習過去問チャレンジ(○×)

本試験レベルの正誤問題です。第三者保護の「要件レベル」と「前後の場面」に注意して解いてみましょう。

Q1.AがBにだまされて土地を売り、Bがそれを事情を知らないCに転売した。Aは、善意・無過失のCに対しても詐欺による取消しを主張できる。

正解は ×。詐欺の取消しは善意・無過失の第三者には対抗できません(96条3項)。Cが守られます。

Q2.AがBに強迫されて土地を売り、Bが事情を知らないCに転売した。Aは、善意・無過失のCに対しても強迫による取消しを主張できる。

正解は 。強迫には詐欺のような第三者保護規定がないため、善意・無過失の第三者にも対抗できます。詐欺との違いが狙われます。

Q3.通謀虚偽表示は当事者間では無効だが、無効を主張できないのは「善意かつ無過失」の第三者に限られる。

正解は ×。94条2項の第三者は「善意」で足り、無過失までは不要とするのが判例。錯誤・詐欺(善意・無過失が必要)との違いに注意。

Q4.動機の錯誤があれば、その動機が相手方に表示されていなくても、つねに意思表示を取り消すことができる。

正解は ×。動機の錯誤による取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限られます(95条2項)。

Q5.第三者が詐欺を行って意思表示がされた場合、相手方がその詐欺の事実を知り、または知ることができたときに限り、表意者は取り消すことができる。

正解は 。第三者による詐欺は、相手方が悪意・有過失のときに限り取り消せます(96条2項)。強迫の場合はこの制限がない点と対比。

Q6.錯誤による意思表示をした表意者に重大な過失があった場合でも、つねに取り消すことができる。

正解は ×。表意者に重過失があると原則取り消せません(95条3項)。ただし相手方が同じ錯誤に陥っていた場合などは例外的に取り消せます。

Q7.AがBにだまされて土地を売り、取消し後にBがCに転売した。Cが善意・無過失であれば、Aは登記がなくてもCに対して土地の返還を求めることができる。

正解は ×取消し後の第三者との関係は対抗問題(177条)で処理され、先に登記を備えた方が勝ちます。Cの善意・無過失だけでは決まりません。

Q8.通謀虚偽表示がなくても、本人が虚偽の外観を自ら作り出し、第三者がそれを信頼した場合に、94条2項を類推適用して善意の第三者を保護することがある。

正解は 。判例は、虚偽の外観を本人が作出・放置した場合に94条2項を類推適用して善意の第三者を保護しています(権利外観法理)。

暗記一問一答
心裡留保は原則どうなる?
A. 原則有効。相手方が悪意・有過失のときだけ無効(93条1項)。無効は善意の第三者に対抗できない(93条2項)。
虚偽表示の効果と第三者保護は?
A. 当事者間は無効善意の第三者に対抗できない(94条2項、無過失は不要)。
94条2項の第三者は登記が必要?
A. 判例上、原則として登記は不要。善意であれば保護される。
動機の錯誤で取り消せるのはどんなとき?
A. 動機が法律行為の基礎として表示されていたとき(95条2項)。心の中の期待だけでは取り消せない。
錯誤で重過失があると?例外は?
A. 原則取り消せない(95条3項)。ただし相手方が悪意・重過失のときや、相手も同じ錯誤に陥っていたときは例外的に取消可。
第三者による詐欺と強迫の違いは?
A. 第三者詐欺は相手方が悪意・有過失のときだけ取消可(96条2項)。第三者強迫は相手方の善意悪意を問わず取消可。
詐欺と強迫、取消し前の第三者保護の違いは?
A. 詐欺は善意・無過失の第三者に対抗できない(96条3項)。強迫は第三者にも対抗できる
取消し後の第三者はどう処理する?
A. 対抗問題(177条)として、先に登記を備えた方が勝つ。
94条2項の類推適用とは?
A. 通謀がなくても、本人が虚偽の外観を作出・放置し第三者が信頼した場合に、94条2項を類推して善意の第三者を保護すること。
法律でいう「善意」の意味は?
A. その事情を知らないこと(良い人という意味ではない)。

📌 このページのまとめ

  • 意思表示の問題は5パターン=心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫
  • 効果は2グループ=無効(心裡留保の例外・虚偽表示)/取消し(錯誤・詐欺・強迫)
  • 第三者保護の要件は3段階=心裡留保・虚偽表示は善意で足りる/錯誤・詐欺は善意+無過失/強迫は保護なし
  • 94条2項の第三者は登記不要。本人が外観を作出した場合は94条2項の類推適用
  • 動機の錯誤は表示が必要、重過失があると原則取消し不可(例外あり)
  • 第三者詐欺は相手方が悪意・有過失のときだけ取消可(96条2項)
  • 取消しは第三者保護規定、取消し登記の先後(177条)で決まる